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Webサイトの表示速度は、ユーザー体験(UX)の向上だけでなく、Googleの検索エンジン最適化(SEO)においても不可欠な要素です。特にGoogleが提唱する「コアウェブバイタル(CWV)」は、Webサイトの健全性を測る最も重要な指標群となっています。
CWVの改善には、HTML、CSS、JavaScriptといったコーディングやプログラミングの知識が必要とされるケースが多いと認識されがちです。しかし、実際にはサーバーの設定やコンテンツの最適化など、コーディング知識がなくても対応できる、あるいはツールを活用して対応できる施策が数多く存在します。
本記事では、SEOマーケティングの専門家として、技術的な要素である表示速度の改善について、プログラミング知識がない方でもすぐに取り組める、具体的な改善策を交えた実践対策についてご紹介していきます。
CWVは、GoogleがWebサイトのユーザー体験(UX)を数値化し、評価するために導入した一連の指標です。2024年3月には、操作応答性を測る指標がFIDからINPに置き換わり、より厳密にユーザーの体感速度を評価するようになりました。
▼変更時に投稿したこちらの記事もご参考にしてください。
GoogleのCore Web Vitals指標、2024年3月にFIDからINPへ変更
CWVは以下の3つの主要な指標で構成されており、この順番で改善に取り組むことが効果的です。
指標名 | 測定内容 | 基準値(「良好」の目安) | 改善が期待できる対策(コーディング不要) |
LCP (Largest Contentful Paint) | ページのメインコンテンツが読み込まれるまでの時間 | 2.5秒以内 | 画像最適化、サーバー高速化、キャッシュ |
CLS (Cumulative Layout Shift) | ページ読み込み中に発生する予期しないレイアウトのずれの総量 | 0.1未満 | 画像・広告のサイズ固定、Webフォントの制御 |
INP (Interaction to Next Paint) | ユーザーの操作に対する応答時間(体感的なインタラクションの遅延) | 200ミリ秒以内 | 外部スクリプトの厳選、タグマネージャーの最適化 |
これらの指標を「良好」な状態に保つことは、SEO評価を高めるだけでなく、ユーザーの離脱率を下げ、コンバージョン率を高める上で非常に重要です。
LCP(Largest Contentful Paint)は、ページ内の最も大きなコンテンツ要素が完全に描画されるまでの時間を示し、実質的にページの読み込み速度を測る指標です。LCPの改善は、特に画像とサーバーの設定によって大きく改善が期待できます。
画像はWebページを構成する要素の中で、データサイズが最も大きく、LCPの遅延の主要因となるケースが頻繁にあります。
Webサイトで使用する画像は、コンテンツの品質を保ちつつ、できる限りファイルサイズを小さくする必要があります。
・次世代フォーマット(WebP)への変換:
Googleが推奨するWebPは、JPEGやPNGと比較して、高い圧縮率を誇ります。可能な限りWebPへ変換することが推奨されます。
オンラインの画像圧縮ツール(例:TinyPNG、Squoosh by Googleなど)を利用し、アップロード前にファイルサイズを削減しておくことが表示速度を改善する上で望ましいです。
・画像サイズの最適化(リサイズ):
CSSでサイズを調整するのではなく、画像が表示されるピクセルサイズに合わせて、あらかじめ画像編集ソフトなどでリサイズしてからアップロードします。これにより、不要なデータを読み込むことを防ぎます。
Webサイトをスクロールしなければ見えない位置にある画像(ファーストビュー外の画像)を、ユーザーがその位置までスクロールした時点で初めて読み込む仕組みをレイジーローディングと呼びます。
多くのモダンなCMSは標準機能として対応しており、対応するキャッシュ系プラグインやSEOプラグインの設定画面でチェックボックスを入れるだけで、コーディングなしにレイジーローディングを有効化できます。
LCPは、サーバーから最初のデータが届くまでの時間(TTFB: Time To First Byte)の影響を大きく受けます。
・サーバープランのアップグレード:
利用中のレンタルサーバーで、より高速なCPUや大容量メモリを持つ上位プランへの移行を検討します。高速表示に特化した高性能なホスティングサービスへの移行は、LCPを大幅に改善させる可能性があります。
・CDN(コンテンツデリバリネットワーク)の導入:
CDNは、画像やCSSなどの静的ファイルを世界中に分散配置し、ユーザーに地理的に最も近いサーバーから配信する仕組みです。DNS設定の変更のみで導入可能な外部CDNサービス(例:Cloudflareなど)を活用することで、物理的な通信距離が短縮され、TTFBとLCPが改善します。
キャッシュとは、一度Webサイトを訪れたユーザーのブラウザやサーバー上にデータを一時的に保存しておく仕組みです。
・ブラウザキャッシュ:
ユーザーがWebサイトを再訪した際に、保存しておいたデータを利用して表示します。CMSのキャッシュ系プラグインの導入や、サーバー側の管理画面からキャッシュ機能を有効化することで対応可能です。
サーバーキャッシュ:
サーバー側で動的なコンテンツの処理結果をキャッシュし、毎回処理を行う手間を省略します。高性能なレンタルサーバーの多くは、管理画面からキャッシュ機能を簡単に有効化できます。
CLS(Cumulative Layout Shift)は、ページ表示中に要素が予期せず移動することで、ユーザー体験が損なわれる現象を数値化したものです。主にコンテンツの読み込み順序が原因となりますが、コンテンツ作成時の注意と設定で対応できます。
画像や動画が表示される直前に、その領域に十分なスペースが確保されていないことが、CLSの最大の原因です。
・画像・動画の「縦横比」指定:
CMSのテキストエディタ機能や画像埋め込み機能を使用する際、画像要素(<img>
タグ)にwidth
(幅)とheight
(高さ)の属性値が自動で挿入されることを確認します。手動でHTMLを編集する知識がなくても、CMS側で設定を確実に行うことが重要です。
これにより、画像が読み込まれる前にブラウザが適切な領域を確保し、レイアウトシフトを防ぎます。
広告、バナー、ウィジェットなど、遅れて読み込まれる動的コンテンツもCLSの原因となり得ます。
・広告表示エリアの固定:
コンテンツ内やサイドバーに表示される広告枠について、CMSや広告配信サービスの設定インターフェースを利用し、CSSで高さ(height
)を固定します。広告が読み込まれてもレイアウトがずれないよう、コンテナ(外側の枠)にサイズを指定します。
・Webフォントの表示設定:
Webフォント(Google Fontsなど)の使用により、フォントが読み込まれる前と後でテキストの表示サイズが変わる場合があります。Webフォントのプラグインやキャッシュ系プラグインの設定画面で、フォントのロード戦略に関するオプション(例:font-display: swap
の適用など)を有効化し、ずれを最小限に抑えます。
INP(Interaction to Next Paint)は、ユーザーがクリックやタップなどの操作を行ってから、ブラウザがその結果を画面に描画し直すまでの遅延を測定する、最新の応答性指標です。これは主に、ブラウザがJavaScriptの実行に忙しく、ユーザーの操作への応答が遅れる「メインスレッドのブロック」によって発生します。
Webサイトに設置されている外部のJavaScript(アクセス解析ツール、広告コード、チャットボットなど)は、メインスレッドを占有し、INPの悪化を招く主因となります。
・不要な外部スクリプトの削除:
現在利用していない、あるいは効果が薄いと判断される外部連携ツールや広告タグは、思い切って削除します。
・タグマネージャーの活用:
複数の外部スクリプトを直接HTMLに埋め込むのではなく、Googleタグマネージャー(GTM)などのタグ管理システムを通じて一元管理し、スクリプトの読み込みタイミングを制御します。
GTMの設定画面で、タグのトリガー(実行条件)を調整し、ページ表示後の適切なタイミングで実行されるように設定します。
・スクリプトの遅延読み込みの設定:
キャッシュ系プラグインやCMSの最適化機能を利用して、外部スクリプトの読み込みに遅延読み込み(Defer/Async)を設定します。これにより、ページの描画や操作を妨げないタイミングで実行されるように調整し、メインスレッドのブロック時間を短縮します。
コアウェブバイタル(CWV)の改善施策は、一度実施して終わりではなく、継続的な効果測定とモニタリングが不可欠です。
ツール名 | 特徴と活用ポイント |
PageSpeed Insights (PSI) | Googleが提供。モバイルとデスクトップの両方について、ラボデータ(シミュレーション)とフィールドデータ(実際のユーザーデータ)を表示します。LCP、CLS、INPの3指標に対する具体的な改善提案(「機会」)が示されるため、改善の羅針盤として活用します。 |
Google Search Console (GSC) | 実際のユーザーデータに基づく「コアウェブバイタル」レポートを提供します。どのURL群が「不良」「改善が必要」と判定されているかを確認し、改善の優先順位付けに活用します。 |
特にPageSpeed Insightsのレポートは、画像最適化やキャッシュ設定など、コーディング不要で対応可能な指摘が多く含まれており、即座に実行できる対策を見つけ出すのに役立ちます。
▼PageSpeed Insightsの表示例についてはこちらでもご紹介しております。合わせてご確認ください。
Googleが発表したINPという新しいCore Web Vitals指標で何がわかるのか
CWVの指標は、実際のユーザー体験を反映しています。改善施策を実施した後は、以下のサイクルで効果を測定します。
・施策の実行:画像圧縮、サーバー設定変更、キャッシュ有効化などの対策を実行します。
・即時チェック:PageSpeed Insightsで施策後のスコアがどのように変化したかを確認します。
・長期モニタリング:Google Search ConsoleのCWVレポートで、実際のユーザーデータ(フィールドデータ)が「良好」へと移行するのを待ちます。(GSCのデータは数日〜数週間のラグがあります。)
・再評価と次の施策:改善が見られない場合は、より上位のサーバーへの移行や、外部スクリプトの見直しなど、さらに踏み込んだコーディング不要の対策を検討します。
コアウェブバイタル(CWV)の改善は、現代のWebサイト運営において避けて通れない課題です。しかし、全ての改善がプログラミング知識を必要とするわけではありません。
本稿で解説した、「LCP、CLS、INPの順に基づいた画像圧縮・WebP化」、「高速サーバーへの移行とCDNの導入」、「キャッシュ設定の有効化」、そして「画像サイズの指定や外部スクリプトの整理」といった対策は、CMSの管理画面操作や外部ツールの活用、サーバー設定の変更など、プログラミング知識がない方でも実行可能で費用対効果の高い施策です。
これらの「コーディング不要な対策」から着手し、定期的なモニタリングと改善のサイクルを回すことで、Webサイトの表示速度とユーザー体験を向上させ、検索エンジンからの評価を高める有効な施策となります。
まずは、ご自身のWebサイトの現状をPage Speed Insightsでご確認し、改善策について検討するところから始めてみてはいかがでしょうか。