台湾における寿司の人気は年々高まりを見せ、今や世代や性別を問わず幅広い層に愛される食文化として定着している。その背景には、日本統治時代に端を発する寿司文化の根付き、90年代に始まった回転寿司の普及、さらには近年のブランドによる多様なマーケティング戦略が展開されている。
寿司が台湾に伝わったのは日本統治時代にまでさかのぼる。当時から台湾人の口に合わせて甘めの酢飯が使われたり、肉鬆(ポークフレーク)や玉子焼きなど台湾独自の具材が加えられるなど、現地化が進んでいった。戦後は一時的に衰退したものの、1990年代には台湾初のリーズナブルな寿司チェーン「爭鮮(スシエクスプレス)」の登場によって寿司が一般層にも浸透。1皿30元(131円)という均一価格と回転寿司のユニークな体験が、外食としての寿司を日常の選択肢へと変えていった。
2000年代以降は日本の大手チェーン「くら寿司」や「スシロー」も次々と台湾市場に参入し、現在では競争の激しい成熟市場を形成している。一方で、おまかせ形式の高級寿司(Omakase)を提供する専門店も増加しており、ミシュラン星を獲得する店舗まで現れるなど、寿司はお手頃と高級の二極化を遂げつつある。
台湾では、寿司はもはや特別な日だけでなく、ランチや夕食の定番として幅広く親しまれている。若年層はトレンドや話題性に敏感で、サーモンを無料で食べられるというプロモーションに際して「鮭魚(サーモン)」という名前に改名した若者が300人以上も現れたというエピソードもある。一方で、中高年層は新鮮さや品質に重点を置き、クラシックな握り寿司や刺身を好む傾向がある。
家庭層では、子どもが自分で好きな皿を取れる回転寿司が高い人気を誇る。また、軍艦巻きや創作寿司も人気で、特に若者は台湾ローカル食材を使ったユニークな寿司(マンゴー寿司、タイ風ソースなど)や炙り系寿司、美味しい見た目に惹かれる傾向が強い。
価格帯としては、平価(手頃な価格)寿司チェーンであれば一人当たり250〜500元(約1,200〜2,000円)程度で済むが、Omakaseの高級寿司では1人3,000〜5,000元(約14,000〜23,000円)以上となる。中価格帯の居酒屋寿司などもあり、選択肢は非常に多様だ。
近年、台湾の寿司ブランドは若年層向けのマーケティングとして、アニメとのIPコラボレーションを積極的に展開している。2025年4月には、スシローが大人気アニメ『ハイキュー!!』とコラボし、指定メニューを注文すると限定クリアカードがもらえるキャンペーンを実施。開始からわずか5時間で主要メニューが完売、配布物も在庫切れとなり、全国の半数以上の店舗で販売停止の貼り紙など、想定を上回る反響が広がった。
このような現象は、以下のようなトレンドを示している:
同様の取り組みはくら寿司でも見られ、『鬼滅の刃』や『SPY×FAMILY』とのコラボにより、ガチャイベントやAR体験など「食+遊び+集める」の総合エンタメ体験が提供されている。
寿司はもはや台湾において「外来料理」ではなく、老若男女に親しまれる食文化となった。その進化は単なる味の追求にとどまらず、価格帯や提供スタイル、さらには体験やエンタメ要素をも巻き込んだ多層的なものとなっている。
台湾の寿司市場は今後もさらなる成長が期待されており、消費者の多様なニーズに応えるべく、ブランド間の競争も激しさを増すだろう。
寿司人気の高まりとともに、「本場・日本の寿司」への関心もすでにインバウンド需要として表れている。築地や豊洲市場での食べ歩き、地方の名店での本格握り体験など、台湾人観光客の寿司を目的とした訪日が今後さらに拡大していくだろう。