近年、中華圏では「IP消費」が爆発的な人気を集めています。IP消費とは、漫画・アニメ・ゲーム・小説などのコンテンツやキャラクターといった知的財産(IP:Intellectual Property)を起点に、その世界観を商品や体験へと広げ、消費することを指します。例えば、人気アニメのグッズ購入、ゲームキャラクターとのコラボ商品、テーマパークでの体験などが典型例です。つまり「物語やキャラクターに共感し、その世界観を日常生活に取り入れて楽しむ」というスタイルが、中華圏全体で広がりを見せているのです。
中国では「ネット小説(網文)」を起点としたIP展開が急成長しています。2024年の網文IP市場は約3兆円規模に達し、ドラマ化やゲーム化を通じて多様な消費を生み出しています。また、「谷子(gǔzi(グーザ))」と呼ばれる二次元カルチャー関連グッズの市場は1.6兆円を突破し、展示会や商業施設でのテーマイベントも盛況です。さらに、デザイナーズトイ市場(中国語で「潮玩」と呼ばれる分野)では、大手の泡泡瑪特(POPMART)は 2024年の売上高が130.4億元(人民元、約2,700億円) に達し、IPを核としたグローバル戦略を進めています。
「二次元」とは中国でアニメ・マンガ・ゲームなどを指す言葉
香港は国際的なIPビジネスの集積地です。香港国際ライセンシングショーを中心に、世界のブランドと地域企業を結びつける仕組みが整っています。消費者の6割以上が「IP関連商品への支出を増やしたい」と回答しており、旺盛な需要がうかがえます。さらに、香港ディズニーランドでは「アナと雪の女王」新エリアの開業をきっかけに入園者数と収益が過去最高を記録。国際IPの力が観光と消費を同時に牽引する典型例となっています。
台湾では政府系機関TAICCAの調査により、アニメやゲームに加えて「台湾発キャラクターIP」への関心が高まっていることが明らかになっています。15〜64歳の幅広い層や親子世帯が、文具・雑貨・ファッション小物といった生活密着型商品に親しみを持ち、2024年の台湾文博会の取引額はNT$ 12億(約576億円)規模に達しました。地域クリエイターと企業の連携により、本土発のIP産業は着実に拡大しています。
文創産業(文化創意産業):文化やデザインに創造性を加えて新しい商品やサービスを生み出す産業。キャラクターグッズ、雑貨、映画・アニメ・ゲームなどを含み、英語では Cultural and Creative Industries と呼ばれる。
台湾文博会(台湾文化創意博覧会):台湾文化部が主催する台湾最大の文化創意産業イベント。デザインや雑貨、キャラクターIPなどを紹介し、台湾発のコンテンツを国内外に発信する場。
中国は膨大なコンテンツ供給と若年層の情緒消費(感情を満たすための消費)が市場を押し上げ、香港は国際IPと体験型消費を融合させ、台湾は本土キャラクターを核に文創産業を成長させています。共通するのは「IP=キャラクターや物語への共感」が購買行動の中心にあることです。
さらに、各市場で取り組みを進める上で参考となる戦略としては、以下のような点が挙げられます。
このように、情緒的価値を活かしながら地域特性に応じた戦略をとることで、IP消費は今後さらに大きな成長機会をもたらすでしょう。