台湾の消費市場は、2025年に入り「安定した物価、緩やかな成長、そしてサービス消費の強さ」という三つのキーワードで語れるようになってきました。
2025年8月の消費者物価指数(CPI)は前年同月比+1.6%と、4か月連続で2%をを下回りました(DGBAS)。台風による野菜価格や外食費の一時的な上昇はあったものの、全体としては落ち着いた推移を見せています。中央銀行も年間見通しを1.75%へ下方修正し、金融政策も据え置きました(Focus Taiwan)。生活者にとっては「買い控え」よりも「お得感」を重視する心理が強まっているといえます。
経済部の統計によると、7月の小売売上高は3.6%減少しました。一方で、外食を含む飲食収入は2.8%増加しており、「モノ消費」から「コト消費」へのシフトが鮮明になっています。特に外食やレジャー、健康関連サービスは堅調さを維持しています。
EC市場は2025年も7.9%の成長が見込まれています。最大手のmomo(富邦媒運営)は2024年に過去最高の売上高を記録し、ダブル11(11月11日)の販促イベントが市場拡大を牽引しました。さらに近年はFacebookやInstagramを中心とした「ソーシャルコマース」も台頭しており、若年層を中心に急速に浸透しています。企業にとっては、SNS上の動画やライブ配信を活用した「発見から購買までの短い導線づくり」が重要な課題となっています。
消費行動のデジタル化はさらに進展しています。金融監督管理委員会の調査によれば、過去1年で81.6%の国民がモバイル決済を利用した経験があるとされています。小売側では「独自決済+会員システム」の統合が加速しています。全聯(PX Mart)は量販チェーン大潤発を「大全聯」として再編し、LINE Payなどの外部決済を外すなど、自社エコシステムの囲い込みを強化しています。
台湾は世界でも有数のコンビニ密集市場であり、店舗数は1.4万店を超えています。中でもセブン-イレブンは7,000店以上を展開し、シェアは過半に達しています。コーヒーや弁当といった日常消費から宅配便受け取り、公共料金支払いに至るまで、生活インフラとしての役割をますます拡大しています。
2024年の訪台外国人数は785万人を超え、1人あたり日額182ドル以上を消費しました。支出の内訳は宿泊(約42%)、飲食(約20%)、買物(約18%)とサービス消費が中心です。国内旅行も引き続き活況で、SNSやモバイル決済を活用した旅行体験の多様化が進んでいます。
台湾の消費市場は、物価の安定を背景に「小売よりもサービス」「現金よりもデジタル」「大規模プラットフォームから独自エコシステムへ」という三つの変化が進んでいます。これからの数か月は、中秋節(10月6日)やダブル11といった大型イベントが控えており、ブランドや小売業者にとってはデジタルチャネルをどう駆使するかが勝負の分かれ目となるでしょう。