香港の消費市場は2024年以降、明暗入り混じる局面を迎えています。観光客数はコロナ前水準を上回る勢いで回復している一方で、消費額は必ずしも比例せず、地元住民の購買行動も大きく変容しています。
2025年7月、香港を訪れた旅客は439万人に達し、前年同月比で12%増加しました。そのうち中国大陸からの旅客は351万人と全体の8割を占めています。しかし注目すべきは、「同日客(日帰り客)」の伸びが21.8%と際立つ一方で、「過夜客(宿泊客)」の伸びはわずか2.5%にとどまっている点です。結果として、高額消費につながりやすい宿泊型観光が伸び悩み、ラグジュアリー消費や高単価品の販売には逆風となっています。
一方、香港住民は週末や祝日に大挙して深圳を中心とした中国本土へ出向き、食事・美容・レジャーを楽しむ姿が定着しました。2025年8月には深圳と香港を行き来する人の数が1日あたり134万人に達し、過去最高を記録しています。香港内のレストランや小売店にとっては、地元需要の流出による「空洞化」が大きな課題になっています。
AlipayHKのデータによると、過去一年間で200万人以上のユーザーが「北上消費(香港住民が深圳など中国本土に渡って消費活動を行うこと)」を体験し、利用頻度は前年比450%も増加しました。「深圳での週末消費」はもはや一過性ではなく、ライフスタイルの一部になりつつあります。
香港の2025年7月小売売上は297億香港ドル(約5,643億円)で前年比+1.8%と微増にとどまり、1–7月累計では▲2.6%となりました。オンライン小売は+13.2%と堅調ですが、全体に占める割合はまだ9%程度です。インフレ率は約1%と安定しているものの、消費者は価格に敏感で、低価格・中価格帯の商品の動きが相対的に強くなっています。
香港の消費市場は、観光回復・北上消費・価値志向という三つの大きな流れに左右されています。「人は戻ったが、財布の開き方は変わった」――この現実を直視し、香港を訪れた観光客と地元住民双方の行動様式に即した柔軟な戦略をとることが必要です。