中国の消費は、量は戻る一方で価格は弱含みという「ニューノーマル」に入りつつあります。大型セール「618(6月18日前後に行われる大型ネット通販セール)」は流通取引総額(GMV)が8,556億元(約17.8兆円)で過去最高を更新しましたが、日次の平均消費は前年を下回りました。値下げや補助金でボリュームは作れるものの、価格に対する厳しさは残っているのが現状です。
同時に、政府はサービス消費の底上げに明確に舵を切っています。商務部など9部門が2025年のサービス消費拡大計画(48項目)を発表し、高齢者介護・育児・家事代行などを重点的に強化しています。高齢社会をチャンスと捉える「シルバー経済」の育成方針も打ち出されました。モノからサービスへと、需要の質を変える政策が進んでいます。
プラットフォーム間の価格競争は激化し、特に“即時小売(1時間配送圏)”への投資は利益を圧迫しています。主要各社は市場シェアの維持・拡大のため巨額の補助を継続しており、当面はマージンの圧縮を覚悟せざるを得ません。規制当局の「行き過ぎた値下げ競争」へのけん制も入り、年後半の競争は政府ガイダンスとバランスを取りながら続くと見られます。
生活者の志向はよりはっきりしてきました。マッキンゼーの最新サーベイは、成長が一桁台の“新常態”において、バリュー・フォー・マネー(質と価格の納得感)を軸に合理的消費へ移行していることを示しています。健康・耐久・省エネなど“確かな効用”に対しては財布が開かれています。
象徴的なのがコーヒー市場です。スターバックスは一部ドリンクを平均5元(約104円)値下げしました。9.9元(約206円)帯まで広がった価格競争に、外資大手も価格面で応答せざるを得なくなっています。
短尺動画コマースは、ライブ配信一辺倒から常設モール(商品棚)や自社アカウント配信の比重が上昇しています。抖音(Tictok)ECの2024年GMV(流通総額)は約3.5兆元(約72.7兆円)に達したと報じられており、トラフィックの偏りをならし、常時購入できる売り場を整備することでプロモーション依存からの脱却が進んでいます。
メーデー(5月1日)連休の国内旅行者は延べ3億1,400万人、旅行消費額は前年同期間比8%増となりました。人出は回復したものの、一人当たり消費額は2019年をまだ下回っています。つまり、人は動くが財布のひもは固い――「人出強・客単弱」のギャップが続いているのです。秋の大型連休(国慶節)も、この延長線上で考えるのが妥当でしょう。
家電・スマホなどの“以旧換新”(買い替え下取り)や補助で前倒し需要が生まれ、「618」セールの販売も押し上げました。ただし一部地域では補助金の一時停止による失速懸念も指摘されています。
新エネルギー車(NEV)は上期で生産+41%、販売+40%と大きく伸び、販売構成比は44%に達しました。価格競争や在庫調整をはさみつつも、構造的な浸透は続くと見込まれます。
中古・循環市場は“節約”にとどまらず、環境・趣味性を伴う新しい価値として拡大しています。清華大学の研究推計では2025年に取引額が3兆元(約62.3兆円)規模に達するとされています。下取り政策との相乗効果で、「売って買う」循環が次の常識となりつつあります。
まとめ:価格の納得感を重視し、政策と販売チャネルの追い風を取り込みつつ、クイックコマースの消耗戦を回避する。これが第4四半期から年末にかけての最適な事業戦略となるでしょう。