近年、グローバル企業にとって税制の最適化とビジネス展開の拠点選びはますます重要なテーマとなっています。そうした中、アジアの金融ハブ・香港は、依然として外資系企業やスタートアップにとって有望な進出先と見なされています。本稿では、2025年現在の香港における税金に関する優遇制度、外資投資のトレンド、そして潜在的リスクについて総合的に解説します。
香港の法人税(利得税)は、初めの200万香港ドルの利益に対して8.25%、それを超える部分は16.5%と、国際的に見ても非常に競争力のある低水準を維持しています。特筆すべきは、香港が「地域課税主義」を採用しており、香港国外で得られた利益には税金が課されないという点です(ただし実態証明が必要)。この点は、多国籍企業のグローバルタックスプランニングにおいて大きな優位性となっています。
さらに、2025年5月より施行された「法人登記移転制度(遷冊制度)」により、海外法人は香港に法人格を移転しつつ、組織構造を変更せずに香港の税金上の恩恵を享受することが可能となりました。
香港では、特定の産業(金融、資産管理、物流、船舶など)において、税率の引き下げや税金の免除などの優遇措置が設けられています。
また、経済協力開発機構(OECD)主導の「グローバル最低税率制度(GloBE)」にも2025年から対応していますが、これは年商が7.5億ユーロを超える巨大企業に限定されており、中小規模の外資企業には引き続き従来の香港の柔軟な税金体制が適用されます。
香港は依然として世界有数の外資流入地域であり、2024年にはGDPの28.8%が直接投資によるものでした。特に、資産運用、ファイナンス、テクノロジー分野での外資進出が活発で、IPO市場やAtoH(二次上場)を通じた資金調達が増加傾向にあります。
2025年上半期には、有名企業SheinやCATLの上場が話題となり、国際的な資本参加も進んでいます。こうした企業にとっては、税金の面でのアドバンテージも香港を選ぶ理由の一つとなっています。また、政府が進めるCEPA協定改訂や国際仲裁制度の強化も、外資系企業にとっての香港進出の後押しとなっています。
一方で、香港経済にはいくつかの構造的なリスクも存在します。商業不動産市場の冷え込み、政府財政赤字の拡大、消費低迷、そして地政学的リスク(中米対立や国家安全法による投資不安)などがその代表例です。こうした背景から、一部では将来的に税金制度が見直される可能性も指摘されています。
特に、企業や個人にとっての「居住・労働環境」としての香港の魅力は、かつてと比べて一部低下しているとの声もあり、税金以外の観点でも慎重な判断が求められています。
香港は今なお、東アジアにおける税務戦略・財務拠点としての大きな可能性を有しています。とりわけ中小企業やスタートアップにとって、柔軟な税金制度、低コストなビジネス設立環境、国際資本へのアクセス性は大きな魅力です。
一方で、進出の際には政治・経済リスクを的確に把握し、制度変更への継続的な対応力が求められます。業種や事業スキームに応じた最適な構造設計と、適切な税金コンプライアンス対応が今後ますます重要になってくるでしょう。