2025年6月、香港の住宅価格は前月比+0.03%とわずかに上昇し、4月以降の安定トレンドを維持しています。金利の低下(HIBOR 1.2%以下)や政府による規制緩和も手伝い、取引は徐々に活発化。2021年のピーク時からの下落率は30%近くに達したものの、ここにきて“底打ち”の兆しが見え始めています。
一方、超富裕層向けの高級物件市場では、取引価格が年初来で10%以上上昇するなど、一部では力強い回復も見られます。政策的な支援と相まって、今後の市場安定化に向けた期待が高まりつつあります。
香港不動産の動向が注目を集める中、李嘉誠(リ・カシン)氏の資産戦略にも関心が寄せられています。
李氏は、香港を代表する実業家であり、長年にわたり「アジアの大富豪」としてその名を世界に知られてきました。もともと貧しい移民家庭に生まれながら、プラスチック製品の製造業で成功を収め、不動産、通信、港湾、エネルギーなど幅広い分野に事業を拡大。
「長江実業グループ(CK Asset Holdings Limited)」や「CKハチソン・ホールディングス(CK Hutchison Holdings Limited)」を中核とし、現在も間接的に多くの香港企業や国際事業に影響を持ち続けています。
その一方で、慈善活動にも積極的で、自身の資産の3分の1以上を教育・医療・科学分野への寄付にあてると公言しており、香港社会での信頼も厚い人物です。
香港の不動産市場が安定化の兆しを見せる中、李嘉誠氏によるグローバル資産の売却がほぼ同時期に進行している点は注目に値します。
金利の低下と政策緩和によって「市況が正常化」しつつあるタイミングで、李氏は港湾資産や不動産を“選別的に売却”しており、こうした動きは単なる偶然とは言えないでしょう。
得られる巨額資金は、グループの社債返済や、次世代に向けた戦略的な投資(例:AI、医療、スマートシティ構想など)へと再配分される可能性があります。
一方で、この資産売却には政治的なリスクも重なっています。
特に港湾事業の売却に関しては、中米間の緊張関係が影を落とし、中国当局は「国家戦略資産の国外流出」への懸念を示し、関連企業に対する圧力も報じられています。そのため、最終的な取引の成立やスキームには今後も不確実性が残されているのが実情です。
さらに注目されるのが、李嘉誠氏が香港や大湾区に所有する不動産物件の大規模な整理です。グループ傘下の開発会社は、約400戸の住宅を香港市場に向けて放出。中には人民元40万元(約870万円)前後の低価格帯もあり、「資産の現金化」との見方が広がっています。
このような動きは、李氏自身の世代交代戦略、また香港市場へのリスク分散策としても読み取ることができ、今後の再投資先にも注目が集まります。
不動産市場がようやく安定の兆しを見せる中、「香港資本主義の象徴」とも言える李嘉誠氏が、グローバル資産の再編に動き出しています。この動きは、香港の地政学的な立ち位置や経済モデルの転換を象徴する出来事と捉えることができるでしょう。
不動産・政治・資本という三つの要素が交差するこの都市の行方は、今後のアジア経済の一断面として注視すべきテーマです。
政策と市況、資本と地政学――複雑に絡み合うこれらの要素の中で、香港は静かに次のフェーズへと進もうとしています。
李嘉誠氏の動きは、単なる個人の資産再編にとどまらず、香港経済全体の変化を映し出す一枚の鏡とも言えるのではないでしょうか。