近年、中国の富裕層が保有資産を海外に移転する動きが加速しています。背景には、国内の経済成長の鈍化、政策的不透明感、外貨規制、さらには「共同富裕」政策への不安など、複合的な要因が存在します。「共同富裕」とは、習近平政権が2021年頃から強く推し進める政策スローガンであり、貧富の格差是正や中間層の拡大を目的としています。富裕層への課税強化、教育・住宅・医療の公共性強化、過度な資本拡張の規制などを通じて、社会全体の公正と安定を図るものですが、一部の富裕層にとっては資産の保全・移転を急ぐ動機にもなっています。
本コラムでは、中国富裕層がどのような手段を通じて海外へ資産を移転しているのか、その最新の動向とともに、関連する規制強化や法的リスクについて整理し、国際ビジネスに関わる日本企業に向けた示唆を提供します。
中国政府は近年、資本流出に対する規制を一層強化しています。個人の年間外貨交換上限(5万米ドル)の徹底、非正規の資金移動ネットワークの摘発、海外保有口座の情報共有を目的としたCRS(共通報告基準)の導入など、制度面・実務面での締め付けが続いています。また、形式上合法でも、資金の流出経路や目的に問題があれば、法的リスクを伴う場合があります。
日本は、中国富裕層にとって人気の高い投資・居住先の一つであり、不動産、教育、医療、観光分野での資金流入が見込まれています。今後も一定の資産流入は続くと予想されますが、同時に「合法性」や「透明性」がより重視されるようになるでしょう。日本企業としては、
中国富裕層の資産移転行動は、グローバルマネーの動向を示す重要なシグナルでもあります。規制と自由化の狭間で動くこの市場を適切に読み解くことが、海外ビジネスの機会創出につながるはずです。