食事の場におけるマナーや価値観は、文化や時代によって大きく異なる。かつての中国では「食事を残すこと」が一種の礼儀とされていたが、現代では「食べきること」が推奨されるようになっている。
かつての中国では、食事を残すことが礼儀の一つと考えられていた。この背景には、以下のような要因がある。
① 「もてなし」の象徴としての食べ残し
中国では、客をもてなす際にたくさんの料理を用意することが礼儀とされてきた。客がすべての料理を食べ尽くしてしまうと、「料理の量が足りなかった」と解釈され、主人が気まずい思いをする可能性がある。そのため、少し食事を残すことが「十分にもてなされた」証と考えられてきた。
② 「年年有余」の思想
中国には「年年有余(nián nián yǒu yú 毎年余裕がある)」という考え方がある。これは、特に旧正月(春節)の食卓で顕著で、「余りがある=富が続く」という縁起の良い象徴として、わざと食事を残す習慣があった。特に魚料理は「魚(yú)」と「余(yú)」の発音が同じことから、完食せずに翌日に持ち越すことが縁起が良いとされた。
③ 「食べ尽くすこと=上品ではないとされる」という価値観
伝統的な中国社会では、特に上流階級の間で「食べ尽くすことは上品ではない行為」とされることがあった。これは、食事に余裕があることが富の象徴であり、「必要以上に食べる=貧しさの表れ」と見なされる傾向があったためである。
社会が発展し、物質的な豊かさが広がるにつれて、中国の食事マナーも大きく変化している。
① 「光盤行動(クリーンプレート運動)」の登場
2013年、中国政府は食品ロスを減らすための「光盤行動(クリーンプレート運動)」を推進した。これにより、外食時に「必要な分だけ注文し、残さず食べる」ことが奨励されるようになった。特に、ビジネスの宴席や公式な会食での過剰な注文が減少し、「食べきること=礼儀正しい」という意識が強まっている。
② 「反食品浪費法」の制定
2021年には「反食品浪費法」が施行され、食品の過剰提供や浪費を防ぐ法的な枠組みが作られた。飲食店では「N-1注文」(例えば4人で来店した場合、3人分の量を注文する)といった取り組みが増え、宴会の際の「見栄を張るような過剰な注文」は減少傾向にある。
③ 消費者の意識の変化
近年、都市部の若者を中心に、「食べ物を残さず食べることがスマート」という価値観が広がっている。外食時には「小皿料理」「ハーフサイズメニュー」を選ぶ人が増え、食品ロス削減が環境問題と結びついている点も特徴的だ。
日本では古くから「もったいない精神」が根付き、食べ物を残さずきれいに食べることが美徳とされてきた。食べ残しは「作った人への失礼」と考えられ、学校給食でも完食が推奨される。
また、日本の食文化は「適量を注文する」ことが一般的で、大量に頼んで残す習慣は少ない。一方、中国では近年、持ち帰り文化が定着し、食べきれなかった料理を持ち帰るのが当たり前になりつつある。
このように、日本と中国では食事マナーの価値観が異なるが、どちらの国でも食品ロス削減への意識が高まり、「食べきること」がより推奨される傾向にある。
中国と日本の食文化には、それぞれの歴史や価値観に基づいたマナーの違いがある。かつての中国では「食べ残すこと」が礼儀の一部だったが、現代では「食べきること」が推奨されるようになり、日本の「もったいない精神」に近づきつつある。
この変化は、単なるマナーの問題ではなく、食品ロスの削減、環境保護、持続可能な消費といった現代社会の課題と深く結びついている。今後、日中両国で「食べ物を大切にし、必要な分だけ食べる」文化がさらに浸透していくことが期待される。
食卓の上の小さなマナーの変化が、社会全体の価値観の進化を映し出しているのかもしれない。
【出典元】
※ 百度搜索:中国剩菜文化
※ 百度搜索:光盘行动
※ 百度搜索:反食品浪费法