中国は現在、「内外環境の不確実性が高まる中で、安定成長と国際的影響力の強化を同時に目指す」戦略を推進しています。本稿では、2025年時点での習近平政権の経済政策と外交戦略に焦点を当て、最新動向を概観します。
2025年の中国政府は、景気下支えと構造改革を両立させるため、過去最大規模の積極財政策を展開しています。財政赤字率は約4%(前年度比+1pt)に引き上げられ、赤字額は5.66兆元(約119兆円)。さらに、特別国債5000億元(約10.5兆円)と超長期特別国債1.3兆元(約27兆円)の発行が計画されており、重点インフラやテクノロジー投資に充てられる予定です。また、地方政府の資金調達を支援するため、特別地方債枠は4.4兆元(約92兆円)に拡大されました。
不動産市場は依然として厳しい状況が続く中、2025年は“止跌回穩”(価格下落の停止と安定化)の実現がキーワードとなっています。既存の購入制限や融資制限の緩和に加え、市場回復を後押しするための“増量型政策”の導入が進められています。一部専門家は、2〜3兆元(約40.9~61.4兆円)規模の安定化基金の設立を提案しており、政府も支援の拡充に前向きな姿勢を示しています。
高止まりする若年層の失業率に対応するため、政府は雇用支援策を強化しています。社会保険料の補助、重点業種への貸付支援、新卒採用に対する企業補助などが盛り込まれた「就業優先政策」が展開中です。2025年夏には「高校卒業生等青年就業サービス集中支援行動」が始動し、失業者に対する個別マッチングとスキルアップ支援が全国的に展開されています。
2025年は「中核技術の自立化」を強調する一年でもあります。半導体、量子情報、先端ロボットなど“次世代重点領域”への国家支援が本格化しており、国家製造業革新センターの整備や中試プラットフォーム構築が進んでいます。デジタル産業との融合も注目され、全国で200か所以上のデジタル工業団地が建設中。また、生物製造・原子レベルの超精密加工技術など、前例のない革新領域への投資計画も打ち出されています。
2025年、アメリカでの政権交代(トランプ政権復帰)を受け、中米関係は再び複雑化しています。通商摩擦や対中制裁が再強化される一方、首脳電話会談や経済対話メカニズムの再開も進められています。中国政府は「相互尊重・協力共存」の原則を改めて強調し、経済分野での限定的協調の余地を模索している状況です。
ロシアとの関係は、2025年も「背靠背(背中合わせ)」の戦略的パートナーシップを維持。通貨スワップの強化、エネルギー・機械製品の相互補完を軸に貿易額は過去最高水準を維持しています。ウクライナ情勢を巡っては中立姿勢を維持しつつも、西側からの対中圧力には一貫して反対の立場をとり続けています。
2025年は中国とEUの国交樹立50周年にあたり、外交的にも象徴性の高い節目の年です。戦略対話や首脳交流の再開が進む一方で、電気自動車や市場アクセスを巡る摩擦も表面化しています。中国側は「欧州の去リスク化(de-risking)政策」を懸念しつつも、サプライチェーン協力や気候変動対応などの分野での実務協調を模索しています。
中国は2025年もグローバルサウスに対する積極的な外交を展開。アフリカ54か国への「100%無関税待遇」や新たな投資ファンド創設を通じて、経済パートナーとしての存在感を一層高めています。中南米との関係では、自由貿易協定やインフラ整備支援を軸に“黄金パートナー”関係の深化を目指しています。特にブラジル・メキシコ・アルゼンチンなどとは新興エネルギーやデジタル経済の分野での協力が進展中です。
習近平政権は、2025年においても「経済安定と技術自立」「外交多元化とパートナーシップの強化」を中軸とした国家戦略を粘り強く展開しています。外的圧力と内的課題の双方に直面する中で、制度設計とリスク対応の巧拙が問われる1年となっています。今後も中国の動向は、アジア経済および国際秩序全体に大きな影響を与える重要要素となるでしょう。