近年、東アジア地域では「予防医療」や「日常的な健康管理」に対する意識が高まっており、それに呼応する形で健康補助食品市場も大きな成長を見せている。特に中国本土、台湾、香港ではそれぞれ異なる市場構造と文化的背景を持ちながらも、共通して“免疫力向上”や“高齢化社会への対応”といったニーズに焦点を当てており、企業側も新たな製品開発やマーケティング戦略を加速させている。
中国の保健食品市場は、2023年に約3,000億元(約6兆円)を超え、今後も年平均8〜10%の成長が見込まれている。その背景には、3億人に迫る高齢者人口とともに、仕事や学業のストレスを抱える“90後(1990年代生まれ)”や“00後(2000年代生まれ)”といった若年層の健康志向の高まりがある。若者の間では、睡眠改善サプリや肝機能サポート成分を含む製品、さらには筋力増強系のプロテインやBCAA(分岐鎖アミノ酸)の需要も増えている。
販売チャネルはオンラインへ急速にシフトしており、2023年時点でEC経由の売上が市場の56%を占め、ライブコマースやインフルエンサーによる影響力が年々強まっている。一方で、シニア層は依然としてドラッグストアや病院売店を主な購買場所としている。
台湾では、健康補助食品の市場規模が2023年に1,600億台湾ドル(約7,500億円)に達し、特に腸内環境・免疫力・目の健康といった機能性ニーズが強い。台湾人の消費習慣には「科学的根拠」や「政府認証(健康食品マーク)」への信頼が根付いており、多くの消費者が製品成分や機能表示を丁寧に確認する傾向がある。
また、女性市場が著しく成長しており、美容系サプリ(コラーゲン、ヒアルロン酸など)や産前・産後ケア向け製品が拡大。地元ブランド「娘家」の紅麹や、新興ブランドによるデジタルマーケティングの成功例など、ローカル企業の台頭も見逃せない。
ECの浸透率も高く、Momo、PChome、Shopeeといったオンラインモールにおける購買は年々増加している。特に若年層はSNSレビューやインフルエンサーの推奨をきっかけに製品を試す傾向が強く、消費行動がパーソナライズ化している。
香港は、伝統的な中医薬(漢方)文化と西洋サプリメント文化が共存するユニークな市場だ。市場規模は2023年に約100億香港ドルに達し、今後も年2〜3%の安定成長が見込まれる。高齢者向けの滋養強壮系漢方「燕窩(ツバメの巣)、冬虫夏草など」や、高所得層による高価格帯の抗老化製品(例:NMN製品)が人気を集めている。
一方、若年層では睡眠改善、ストレス対策、ダイエット補助といった目的に沿った製品のニーズが高まっている。販売チャネルとしては依然としてWatsons(屈臣氏)やMannings(萬寧)などのドラッグストアが強く、実店舗での相談型販売が主流である。ECの利用率はまだ限定的だが、若者層を中心にHKTVmallなどのプラットフォーム利用が進みつつある。
三地域に共通して見られるのは、以下のようなトレンドである:
アジアにおける保健市場は、「健康を意識的に選ぶ暮らし方」として定着しつつあり、単なる“サプリ”を超えたライフスタイル提案型の市場へと進化している。日常の延長にある“健康の選択肢”として、保健製品はますますパーソナルで感性に訴えるものになっていくだろう。