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    更新日:2025.11.27  公開日:2025.11.28

世界のホリデーシーズンはどう過ごす?生活者理解から紐解くマーケティングインサイト

日本において、一年で最も重要な祝祭シーズンといえば、実家に帰省し、おせち料理を食べ、初詣に行くといった「静」のイメージの年末年始が一般的です。しかし、視点を海外に向けると、その過ごし方や盛り上がりのタイミングは地域によって全く異なります。

海外に向けたプロモーションや越境ECを行う際、この「文化的なカレンダー」や「生活者のマインドセット」を正しく理解していないと、せっかくの商機を逃してしまうことになりかねません。

本コラムでは、主要エリアごとのホリデーシーズンの過ごし方を整理し、そこから見えてくるマーケティングインサイトについて解説します。

1. 世界の「年末年始」事情:エリアごとの違い

日本では1月1日(元日)が最大の祝日ですが、世界的に見ると必ずしもそうではありません。まずは主要エリアごとの特徴を見ていきましょう。

欧米(アメリカ・ヨーロッパ):クリスマスがメイン、新年はパーティー

欧米諸国において、日本の「お正月」に相当する家族団らんの重みを持つのは「クリスマス(12月25日)」です。 多くの人はクリスマス休暇を取り、家族や親族とプレゼント交換やディナーを楽しみます。そのため、12月25日はお店も閉まり、街は静まり返ることが一般的です。

一方で「ニューイヤー(12月31日~1月1日)」は、友人や恋人と過ごす「パーティーイベント」という位置づけです。カウントダウンイベントや花火で盛大に祝い、1月1日はその休息日、そして1月2日からは通常営業・仕事始めとなるケースがほとんどです。日本のような「三が日」のような長い正月休みは存在しません。

消費ピーク価値観・過ごし方広告のトーン注意点
欧米(アメリカ・ヨーロッパ)11月:ブラックフライデー・サイバーマンデー
12月前半-中旬:クリスマスギフト商戦
年明け:クリアランスセール中心(購買意欲は低下)
クリスマス=家族
ニューイヤー=友人・恋人と祝うパーティー
長期休暇はクリスマス〜年末前後
クリスマス:温かい・家族的・ホリデー感
ニューイヤー:明るい・華やか・新しい挑戦
「特別感」「贈り物」「自己投資」が刺さる
12月25日は大半の店が閉まる
年明けの通常営業は早い(1/2〜)

中華圏(中国・台湾・香港など):本番は「春節(旧正月)」

中華圏においては、1月1日の「新暦の正月(元旦)」も祝日ではありますが、あくまで小規模な連休に過ぎません。 彼らにとって本当の正月は、太陰暦に基づいた「春節(旧正月)」です。春節の時期は毎年変動しますが(概ね1月下旬~2月中旬)、この期間は長期休暇となり、「民族大移動」と呼ばれるほどの帰省ラッシュが発生します。

消費行動もこの春節に向けて最大化するため、新暦の年末年始に大規模なセールを仕掛けても、反応が薄い場合があります。

消費ピーク価値観・過ごし方広告のトーン注意点
中国11/11(独身の日)
春節前(最大ピーク)
618セール(6月)
最大の帰省=春節
春節前は「贈答」「自宅用」の大量購買
家族第一、縁起を重視(赤・金・吉祥文様)
「繁栄」「幸運」「家族団らん」
赤 × 金 × 団らん系ビジュアル
ステータス性・品質訴求も強い
春節期間は物流が止まりやすい
工場も長期休みに入る
配送遅延告知は必須
台湾ダブル11(11月)
春節前(最大)
12月は欧米ほどの盛り上がりなし
春節の帰省・親族行事が中心
若年層は新暦カウントダウンも楽しむ
ギフト文化は中華圏と同じ傾向
春節:家族・幸福・縁起
若年向け:シンプル・清潔感・韓国系表現が刺さる
物流は中国ほど止まらないが、遅延は出る
IT・ECリテラシーは高く、比較検討がシビア
香港クリスマス(欧米文化の影響大)
春節(同時に盛り上がる)
セールが多く、二重で需要が高い
欧米文化 × 中華文化のハイブリッド
クリスマスは欧米式に楽しむ(装飾・ホテル・ギフト)
年越しは都市型イベント(ビクトリアハーバーのカウントダウン)
春節は家族・縁起・伝統行事が中心
欧米的な華やかさ × 中華の縁起
エレガント・ラグジュアリー系が特に強い
高所得者が多く、ハイ価格帯も比較的売れる
多言語(繁中・英語)対応は必須

韓国:最大の家族イベントは「旧正月(ソルラル)」

韓国も日本や中華圏と同様に旧暦を重んじる文化があり、最大の家族行事は「旧正月(ソルラル)」です。 旧暦の1月1日とその前後3日間が連休となり、家族・親戚が集まり、先祖を祀る祭祀(チェサ)を行います。この期間は高速道路が渋滞し、帰省ラッシュが起こります。

一方、新暦の1月1日は祝日ですが、多くの企業は1日で休みを終え、1月2日から通常業務に戻ります。年末の消費はクリスマスや贈答品需要が主であり、旧正月に向けた贈答需要の方が遥かに大規模になります。

消費ピーク価値観・過ごし方広告のトーン注意点
韓国クリスマス(恋人・友人向け)
旧正月(最大の贈答ピーク)
新暦1月1日は小規模
ソルラルは帰省・祭祀(チェサ)
若者は12/31〜1/1を友人と過ごす傾向も
ソルラル:家族・温かさ・縁起
年末:恋人向け・ギフト・特別感
ギフト市場の競争が激しく、ブランド力が問われる

東南アジア:複数の「正月」が混在

東南アジアは国や宗教によって事情が複雑です。カレンダーの読み方や祝日の意味合いが異なるため、細分化した理解が必要です。

ベトナム・マレーシア(華僑系)

中国と同じく旧正月(テト、春節)が最大にして最も重要な祝日です。家族での帰省や伝統行事に重きが置かれます。この時期は多くの商業活動や物流が停止します。

タイ・カンボジア

4月の仏教上の正月(タイではソンクラーン)が最も盛大に祝われます。12月31日のカウントダウンイベントも開催されますが、家族が集まるのはソンクラーンです。

インドネシア・マレーシア(イスラム教徒)

イスラム教の祝日「レバラン(断食明けの祭り)」が、家族が集合する最大のイベントです。グレゴリオ暦の年末年始は通常の週末に近い位置づけとなることもあります。

消費ピーク価値観・過ごし方広告のトーン注意点
タイ12/31のカウントダウン
最大ピークは4月のソンクラーン(タイ正月)
そのほか誕生日や仏教行事でのギフトも強い
家族・寺院・伝統的な行事
水かけ祭りなど「祝祭感」が強い
明るい・陽気・ポジティブ
若年層には韓国系・ミニマルデザインも
ソンクラーン期間は物流・行政手続きが停滞
インドネシアレバラン(断食明け)
経済活動が一時的にスローになる
年末年始の盛り上がりは限定的
家族・親戚との大規模な集まり
新年より宗教行事が中心
伝統的・家庭的
贈り物・感謝の気持ちを強調
レバラン前後は物流停止の可能性
ベトナムテト前が年間最大
食品・ギフト・家電などがよく売れる
家族・伝統儀式・墓参りなど
帰省による国内移動が激増
赤・黄色(幸運)
家族・健康・長寿がキーワード
テト期間はほぼ全ての商業活動が停止
越境ECは1ヶ月単位での配送遅延も

2. 生活者理解から紐解く3つのマーケティングインサイト

こうした文化背景の違いは、具体的なマーケティング施策にどう落とし込むべきでしょうか。3つのポイントに整理します。

プロモーションのピーク設定を現地化する

日本の感覚で「年末商戦(12月)→初売り(1月)」というスケジュールをそのまま海外に適用するのは危険です。

例:欧米

ブラックフライデー(11月下旬)からサイバーマンデー、そしてクリスマス直前までが最大の商戦期です。年明けは「クリアランスセール」の意味合いが強くなります。

例:中華圏

11月11日(独身の日)と春節前が二大商戦期です。新暦の年末年始は、春節へ向けたプレ期間として捉える必要があります。

クリエイティブのトーン&マナーを変える

「誰と」「どう過ごすか」によって、響くクリエイティブは異なります。

例:欧米(年末年始)

しっとりした和風のテイストや家族団らんよりも、「セレブレーション」「パーティー」「新しいスタート」といった、エネルギッシュで華やかなトーンが好まれる傾向にあります。

例:アジア(春節)

「家族」「帰省」「伝統」「赤や金などの縁起の良い色」がキーワードになります。

物流・オペレーションの「停止」リスクを織り込む

越境ECや現地でビジネスを行う場合、現地の「休み」はプロモーションだけでなく物流にも影響します。 特に中華圏の春節期間は、工場や物流機能が完全にストップすることが多々あります。「注文は取れたが、発送が1ヶ月後になる」といった事態を防ぐため、在庫確保や配送スケジュールの告知は、現地のカレンダーに合わせて前倒しで行う必要があります。

3. まとめ

海外マーケティングにおいて「翻訳」は言葉だけではありません。 現地の生活者がその時期に「誰と」「どんな気持ちで」過ごしているかという「文脈の翻訳」こそが重要 です。

自社のターゲット国が、年末年始をどう捉えているのか。単なるカレンダー上の休日としてではなく、生活者のインサイトとして理解することが、グローバル展開成功の第一歩となります。

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