海外市場に向けてWebを通じて広告を届けたいと考えたとき、手軽に始められて効果も実感しやすいリスティング広告にまず目が向く方も多いでしょう。
例えば、世界で最もシェアの大きい検索エンジンといえばGoogle。日本人にも馴染み深い検索エンジンであり、国内市場向けにリスティング広告運用をされている方も多いのではないでしょうか。しかし、同じ検索エンジンを利用したとしても、海外市場向けのリスティング広告展開では、国内市場の一般的な方法と異なる点も多くあります。
本記事では、リスティング広告の基本を振り返りつつ、海外市場向けにリスティング広告を出稿する際に押さえておくべきポイントや、代表的な検索エンジンの特徴をお伝えします。
リスティング広告とは、インターネットユーザーが検索エンジンで特定のキーワードを検索した際に、その検索結果ページに表示される広告のことを指します。検索連動型広告とも呼ばれ、Googleなどの検索エンジン上でよく目にする広告形式です。
最大の特徴は、ユーザーの検索行動に基づいて表示されるため、広告が興味やニーズに合致しやすく、効果的にターゲット層へアプローチできる点です。また、クリック課金制(PPC:Pay Per Click)が一般的であり、ユーザーが広告をクリックした際にのみ費用が発生するため、無駄な費用を抑えつつ高い費用対効果を期待できます。
リスティング広告は2002年に米Google社、次いで米Overture社(現在のYahoo!広告の仕組みを最初に提供した企業)が日本に参入し、検索エンジン利用者をターゲットにした広告として急速に普及しました。
Googleは検索ネットワークを活用し、自社の検索エンジンだけでなく、ニフティやExciteといったポータルサイトと提携し、ユーザーの検索結果画面に広告を表示する仕組みを整えました。その後、広告配信の仕組みはディスプレイネットワークやAdSenseへと進化し、ポータルサイトのみならず一般企業や個人ブログなど、あらゆるウェブサイト運営者に広告収益の機会を提供するプラットフォームへと成長を遂げました。
一方、Overtureは当時世界最大級のポータルサイトであったYahoo!と提携し、日本市場ではYahoo! JAPANがこの広告配信の仕組みを採用しました。Yahoo!は自社の圧倒的な利用者数を活かして検索、ニュース、ショッピングなどのサービスを提供し、ユーザーを自社サービス内に留める「囲い込み戦略」を展開しました。
Googleがインターネット上の様々なウェブサイトを連携させて広告表示機会を増やす方針を取ったのに対し、Yahoo!は豊富なユーザー基盤を武器に自社サービス内でユーザーを囲い込み、広告収益を最大化する戦略をとりました。そのため、当初は国内でYahoo!がリスティング広告市場の大半を占めていました。しかし、その後Googleが検索エンジンの品質や広告配信技術を継続的に向上させたことで、徐々に日本でもシェアを拡大。現在では世界市場でGoogleが圧倒的なシェアを持つに至っています。
YouTubeをはじめとした動画プラットフォームの拡大や、FacebookやX(旧Twitter)などのSNSの普及により広告手法も多様化しましたが、それでもなおリスティング広告はGoogleを中心に世界的に主流の広告手法として定着しています。特に海外市場を視野に入れた企業のマーケティング戦略において、リスティング広告は引き続き重要な役割を果たしています。
リスティング広告は、明確な目的や課題を持ち、具体的なキーワードで検索を行う顕在層に効果的に訴求できます。特に商品名やサービス名で検索する購買意欲の高いユーザーをターゲットとし、効率よく広告を届けられる点が特徴です。
リスティング広告は、個人や法人が直接運用する場合、理論上は非常に少ない金額(例:1円)から広告を出稿できます(※)。設定した広告費を使い切ると自動的に配信が停止する仕組みのため、予算オーバーのリスクがありません。また、広告の出稿後でも柔軟に調整や停止が可能です。
※実際に広告効果を出すための推奨予算とは異なります。
※代理店などへの委託運用の場合は、条件が異なることがあります。
リスティング広告は、即時に広告出稿が可能であり、緊急のプロモーションや短期間限定のキャンペーンにも迅速に対応できます。また、広告配信の停止や内容変更も即座に行えます。また、広告効果を見ながら最適化を図るなど、PDCAサイクルを素早く回せる点も大きな利点です。
Google広告をはじめとする主要なリスティング広告プラットフォームは、ディスプレイ広告や動画広告など、さまざまな広告形式に対応しています。まずはリスティング広告で効果を測定した後、他の広告手法に展開し、統合的なマーケティング施策を効率よく進めることができます。
リスティング広告はユーザーの検索行動に基づくため、具体的なニーズが明確でない潜在層への効果的なアプローチは苦手としています。例えば「ハワイ旅行」と検索したユーザーに対して他の旅行先を提示することは可能ですが、ユーザーの検索意図とは異なるため、高い反応を得ることは難しいです。潜在層の開拓には、ユーザーの興味・関心に基づいてターゲティング可能なディスプレイ広告やSNS広告などが適しています。
リスティング広告を含む運用型広告全般に共通する特性ですが、広告の即効性がある一方、広告掲載を停止すると即座に新規ユーザーの流入も途絶えてしまいます。中長期的に安定した集客を維持するためには、SEOやコンテンツマーケティングなど、継続的な施策との併用が必要です。
かつてリスティング広告は費用対効果の高さで評価されていましたが、現在では広告主の増加に伴う競争の激化やユーザーの広告慣れなどの影響で、単体での広告効果は低下傾向にあります。そのため、他のマーケティング施策や複数の広告手法と組み合わせることで、総合的な費用対効果を高める戦略が重要です。
狙う市場の言語を正確に把握しましょう。ユーザーは自分の言語で情報が提供されていることを強く望む傾向があります。CSAリサーチの調査によれば、オンライン購入者の76%が母国語で情報が提供されている商品を購入したいと考えており、40%は自分の言語でないサイトからは「決して購入しない」と回答しています。つまり、言語対応を怠ると大きな機会損失につながります。
また、地域によっては複数の公用語が使われているため、それぞれの言語に合わせた広告の最適化が必要です。例えばマレーシアであれば英語と中国語、インドであれば英語とヒンディー語などが使用されています。こうした複数言語の市場では、各言語に応じて適切なキーワード選定や広告文の作成、さらにはランディングページの翻訳と最適化を行うことで、ユーザーに違和感なく広告メッセージを届けることができます。
国や言語が変われば、検索キーワードの入力方法や検索に至る動機・行動も異なります。
例えば、以下のような違いがあります。
日本:日本語での検索が基本。単語型の検索が多く、複数のキーワードをスペースで区切って入力する傾向があります。
中国:中国語での検索が基本。単語型の検索の際は日本と違ってキーワード間にスペースを置かない傾向にあります。また、短い疑問型の文章で検索することが多いのも特徴の1つです。
タイ:華人の存在もあり、一部中国語や英語での検索も見られるものの、タイ語での検索が基本。文章やフレーズで検索する傾向があります。
アメリカ:名詞句での検索がよく見られます。特に“best”、“must”、“things to do”など、口コミやおすすめ情報を探す際に使われやすい表現があります。
このように、言語や文化背景によって検索クエリの形式や好まれる表現が異なるため、ターゲット市場における一般的な検索パターンを事前にしっかり把握することが不可欠です。検索習慣を十分に理解せずキーワードを選定すると、意図しない形で検索ボリュームが低いキーワードを設定してしまうリスクが高まります。
海外向けリスティング広告を成功させるには、日本語の広告文を単純に翻訳するだけではなく、現地の文化や習慣に基づいた「ローカライズ」を徹底することが重要です。日本市場で成果を上げたキーワードや広告クリエイティブをそのまま使用すると、海外市場では必ずしも同じように効果を発揮するとは限りません。ターゲットとなる現地ユーザーの嗜好や表現方法に合わせて内容を再構築することが求められます。
日本国内で効果があったキーワードを機械的に翻訳しただけでは、現地では検索ボリュームが極端に低かったり、全く検索されなかったりする場合があります。現地ユーザーが実際に検索時に使う単語やフレーズを調査し、リアルな検索ニーズに沿ったキーワードを選ぶ必要があります。例えば、訪日中国人観光客に観光地の情報を訴求する際は、現地で旅行ガイドやおすすめスポット情報に頻繁に使用される「攻略」という言葉をキーワードに採用することで、高い効果を得られるでしょう。
中国語圏では、「抢购中!(急いで購入!)」や「限时特惠!(期間限定特価!)」のように緊迫感や特別感を打ち出すフレーズが好まれます。一方で英語圏では、「Buy now!(今すぐ購入)」といった明確かつ直接的な表現が一般的ですが、日本市場ではやや押しの強い印象を与えるため、「今すぐチェック」や「詳しくはこちら」といった控えめで柔らかな表現が好まれます。このようにターゲット言語ごとの嗜好に合わせて適切な表現を選び、不自然な翻訳や誤訳がないかネイティブのチェックを必ず行いましょう。
広告やランディングページのデザインについても、色使いや画像選定、訴求ポイントを現地ユーザーの嗜好に合わせて調整することが求められます。また、金額表示や日付・時間の表記も市場ごとに異なるため、適切なフォーマットを使用しましょう。
ターゲット市場においてよく利用されている検索エンジンを理解し、それぞれの特性を把握することが重要です。日本国内では主にGoogleが使われていますが、海外では地域ごとに利用される検索エンジンが異なります。
例えば、中国では百度(Baidu)、韓国ではNAVER、ロシアではYandexなど、それぞれGoogleとは異なる独自のアルゴリズムや広告表示の仕組みを持つローカル検索エンジンが主流です。こうした地域では、それぞれの検索エンジンの特性を理解し、現地ユーザーの検索行動や好みに合わせた専門的な運用が求められます。
法規制を軽視すると広告掲載が拒否されたり、場合によっては罰則を受けたりする可能性もあります。以下のポイントを踏まえて準備を進めましょう。
広告内容や表現の制限:商品・サービスの種類によって、広告できる内容や表現方法に厳しい規制がある場合があります。特に医薬品、サプリメント、美容関連、金融商品などは多くの国で厳格な規制が設けられているため、事前確認が必須です。例えば中東地域ではイスラム法によりアルコール飲料の広告掲載が禁止されています。
個人情報保護に関する規制:EUのGDPR(一般データ保護規則)をはじめ、地域ごとに個人情報の取り扱いに関する規制が異なります。特にEU圏を対象とする場合は、現地の個人情報保護法を遵守したプライバシーポリシーの整備と適切な告知・同意取得が必要です。
特殊な広告規制や審査基準:特定の広告媒体や検索エンジンが独自の審査基準を持つ場合があります。例えば韓国のNAVER広告では、広告ランディングページのフッターに企業の名称や住所などの情報掲載が義務付けられています。これらの媒体ごとの規制や審査基準を事前に各媒体のガイドラインで十分に確認することが重要です。
新規参入する市場であっても、すでに地元企業や他国からの競合が広告を出稿しているケースがほとんどです。そのため、現地の競合企業がどのような広告を展開しているかを調査・分析することが重要です。
競合調査では、ターゲット市場のユーザー視点で主要キーワードを検索し、どのような広告が表示されるかを把握することが効果的です。VPNなどを利用してターゲット地域の検索状況を確認したり、Googleであれば「広告プレビューと診断ツール」を活用したりすることで、現地の広告状況を詳細に把握できます。このリサーチを通じて競合他社の訴求ポイントや広告表現を明確にし、自社の製品やサービスの強みや差別化ポイントを洗い出すことが可能になります。
競合分析で得た知見を広告文やクリエイティブに反映させることで、競争優位性を強調し、ターゲット市場で効果的な広告展開を目指しましょう。価格面での競争が厳しい場合は品質やアフターサービスをアピールしたり、競合にはない独自のサービスや価値を訴求したりと、現地ユーザーに響く工夫が重要です。
海外市場向けのリスティング広告では、ターゲットとなる地域やユーザー層に最適な検索エンジンを選定することが重要です。ここでは、海外市場向けリスティング広告でよく利用される検索エンジンとその特徴を紹介します。ただし、市場によっては特有のローカル検索エンジンも存在するため、地域ごとの調査が広告成功の鍵となります。
参考:世界40カ国、主要検索エンジンシェア【PC、モバイル】
参照:Google
世界最大の検索エンジンで、多くの国で主流となっています。特にアメリカ、ヨーロッパ各国、アジア諸国(中国を除く)で圧倒的なシェアを誇ります。広告プラットフォームであるGoogle広告(Google Ads)は、リスティング広告に加え、ディスプレイ広告や動画広告など、多彩なフォーマットで幅広い訴求が可能です。
Microsoftが提供する検索エンジンで、主にアメリカやヨーロッパの一部地域で一定のシェアを持っています。広告プラットフォームのMicrosoft Advertising(旧Bing Ads)は、Google広告と類似の仕組みを持つ一方で、比較的競争が少なく、広告費用を抑えたアプローチが期待できます。
参照:百度(Baidu)
中国最大の検索エンジンで、中国国内ではGoogleの代替として圧倒的シェアを獲得しています。百度広告(Baidu Ads)は、中国語検索特有の検索クエリや中国ユーザーの行動パターンに合わせた最適化が施されており、中国市場でのリスティング広告展開には必須のプラットフォームです。
なお、日本からBaiduに広告出稿する場合、基幹代理店を通す必要があります。
参照:NAVER
韓国で最も利用されている検索エンジンで、韓国国内ではGoogleよりも高い利用率を誇ると言われています。NAVER広告(NAVER Ads)は検索結果だけでなく、ニュース、ブログなどNAVERの多彩なコンテンツへの広告配信が可能であり、韓国市場向け広告展開に重要な役割を果たします。
参照:Yandex
ロシア最大の検索エンジンで、ロシア国内ではGoogleとシェアを二分しています。Yandex広告(Yandex Direct)は、ロシア語検索に最適化されており、ロシアやCIS諸国(旧ソ連圏)向けのリスティング広告を展開する際に活用されます。
せっかく届いた広告が、「なんだか違和感があるな」と感じられてしまわないよう、海外市場向けのリスティング広告を効果的に運用するには、国内での常識や成功事例にとらわれず、ターゲット市場の特性を深く理解することが重要です。
特に、言語対応・検索エンジンの特性・地域ごとの検索行動の違いを意識して適切な形で広告を届けること、そして競合分析を通じた差別化ポイントの洗い出しをすることでより魅力を深く知ってもらうこと、これらの積み重ねが海外市場でファンを増やすことに繋がっていきます。
また、リスティング広告はあくまでもWEBマーケティング戦略の一つであり、カバーしきれない課題も多々あります。例えば潜在層向けのアプローチ施策としてSNS広告、自然検索からの導線確保のためのSEOなど、海外市場での成功に向けてさまざまな施策をバランスよく組み合わせ、効果を最大化しましょう。