朝には「週末は深センまで行って髪を切ってきました」と話す人がいれば、昼休みには「次は深センで歯医者に行きます」と語る人もおり、夜にはミシュランに掲載された小さな店に予約を入れる人もいます。
2025年の香港では、国境をまたぐ暮らしとローカルを改めて味わおうとするムードが同居しています。
7月の消費者物価指数(CPI)は前年比+1.0%でした。6月(+1.4%)から伸びが鈍り、基調CPI(一時的な政府措置などの影響を除いた指標)も+1.0%で落ち着いています。
小売は「持ち直しの兆し」が見られます。6月の名目小売売上は+0.7%と2カ月連続のプラスでしたが、1〜6月累計は▲3.3%と慎重さも残っています。ネット通販の比率は8.5%です。
上半期(1〜6月)の香港への旅行者は約2,400万人でした。うち本土客が約75%で、非本土も前年同期比で着実に増えています。
一方で、短時間・低予算で密に巡る“弾丸型”旅行(中国語圏で「特種兵旅遊」と呼ばれるスタイル)が存在感を増し、日帰り客の比率上昇や1人当たり消費額の低下が課題になっています。街側ではイベントや無料体験、旧市街の散策コースなど、“高額消費に頼らない滞在理由づくり”を強化しています。
6月にPayment Connect(支付通 香港と中国本土の間でのリアルタイム決済システム)が始動しました。香港の即時振込(FPS)と中国本土の送金網(IBPS)が直結し、携帯番号や口座番号だけで小口の即時クロスボーダー送金が可能になりました。家族間送金や越境ECの小額決済がさらにスムーズになります。
MTR(地下鉄)は2025/26年度、運賃を値上げなしとしています。一方、香港トラム(路面電車)は5月に大人片道がHK$3.3(約62円)へ改定されました。
政府の公共交通費補助制度は6月から「月の交通費がHK$500(約9,422円)を超えた分」に補助が出る形に見直され、家計の体感は小幅に調整されています。
さらに7月には、配車アプリ(ライドシェア)制度化の案が公表されました。プラットフォーム・車両・運転手のライセンス制や保険義務などが盛り込まれ、来年上半期の制度開始が視野に入っています。
住宅価格は4カ月連続で前月比上昇しています。7月は+0.4%とペースがやや加速しました。ただし年初から通算では小幅なマイナスで、2021年のピークからはなお大きく下がった水準です。
家賃は上昇が続き、2019年の水準に近づく勢いがあり、実需の強さを感じます。
香港のフードデリバリー市場は、今年春にDeliverooが撤退したことで大きく変わりました。現在はfoodpandaとKeeTaの2社が主流となり、市場を二分しています。
一方、外食シーンでは、特別な日に利用される高級レストランから、日常的に楽しめる手頃な価格の良店まで、選択肢が広がっています。ミシュランガイド2025では、フレンチレストランの「Amber」が三つ星に昇格しました。また、手頃な価格で優れた店の拡充により、1人当たりHK$400(約7,500円)以下で楽しめる質の高いレストランの選択肢も増えています。
法定最低賃金は5月1日にHK$42.1/時(約793円/時)へ引き上げられました。関連する月額の基準額もHK$17,200(約324,110円)になりました。人件費の上昇と価格転嫁の難しさの綱引きが続くなか、“量より体験価値”を磨く動きが広がっています。
まとめ
物価は落ち着き、消費は“安く賢く+時々ご褒美”という傾向が強まっています。街は、越境とローカルのあいだを揺れながら、体温を取り戻しつつあります。企業も生活者も、“価格だけではない納得感”をどう設計するかが、2025年下半期の勝ち筋になります。