ここ数年、台湾では「電気が足りなくなるのではないか」という声がたびたび上がっています。
原子力発電の停止や再生可能エネルギーへの転換、さらにAIや半導体工場の急増など、
経済の勢いとともに電力の安定確保が大きな課題となっています。
台湾の経済部(MOEA)は、今後10年間の電力消費量の伸び率を年平均1.7%と予測しています。
以前の見通し(2.8%)よりも控えめになりましたが、これは節電の進展や一部産業の海外移転を考慮した結果です。
ただし、AIの普及や半導体工場の拡張が予想以上に進めば、実際の消費量はこの数字を上回る可能性があります。
台湾ではいま、世界最先端のチップ製造を担う工場が相次いで建設されており、これらの施設は莫大な電力を必要としています。
台湾の電力の約8割は火力発電(天然ガス・石炭)でまかなわれています。
再生可能エネルギーの割合はまだ1割ほどにとどまっており、風力や太陽光の発電設備はこれから拡大していく段階です。
2025年5月には、最後に残る原子力発電所が稼働を停止しました。
これにより台湾は、事実上「脱原発」を達成したことになりますが、そのぶん火力発電への依存が高まります。
夏場のピーク時には予備率(余裕分)が4〜6%まで下がることもあり、電力が「安定しているがやや綱渡り」という状況が続いています。
特に注目されるのが、AIデータセンターや半導体工場による“新しい電力需要”です。
たとえば台湾の大手半導体メーカーTSMCは、すでに台湾全体の約1割の電力を使っているといわれています。
このまま成長が続けば、2030年には4分の1近くを占める可能性もあるとの試算もあります。
一つの企業や産業がここまで大きな割合を占めるのは、世界でも珍しいことです。
電力インフラの整備が遅れれば、製造や輸出の競争力に直接影響するおそれもあります。
電力会社の台湾電力(Taipower)は、巨額の赤字を抱えながらも2025年上半期の電気料金を据え置く方針を発表しました。
ただし、夏季は通常期より約20%高い「季節電価」が適用されるため、企業や工場ではコスト負担が続いています。
一方で、企業の間では「再生エネルギーを自分で確保する」動きも広がっています。
太陽光発電や蓄電池を組み合わせたり、長期契約(PPA)で再エネ電力を購入したりすることで、
価格変動リスクを抑えながら環境対応を進める企業が増えています。
今後、台湾が取り組むべき課題は大きく三つあります。
台湾は「脱原発」「再エネ推進」という明確な方針を掲げています。
この選択は決して簡単ではありませんが、もしうまく実現できれば、
環境にやさしく、AI時代にふさわしい「スマート電力社会」を築けるでしょう。
電力の安定は、産業の強さと生活の安心を支える土台です。
変化の真っただ中にある台湾の取り組みは、
日本を含む多くの国にとっても参考になるモデルになるかもしれません。