台湾および香港への市場拡大や販路開拓を検討する際、多くの企業が直面するのが「クリエイティブのローカライズ」という課題です。 地理的に近接しており、共に繁体字を使用する地域であることから、同一のバナー広告やランディングページを流用できると考えられがちです。しかし、実際には言語のニュアンス、好まれる色彩、訴求ポイントにおいて差異が存在します。
本コラムでは、台湾・香港に向けたWebマーケティングにおける国別のクリエイティブの特徴と注意事項について解説します。
目次
台湾と香港は、Web上の言語設定や分類においては共に「繁体字(Traditional Chinese)」を使用します。しかし、実務レベルの広告運用においては、それぞれの地域で日常的に使われている語彙や文法、すなわち「台湾繁体字」と「香港繁体字(広東語ベース)」の違いを理解することが重要です。
例えば、「今なら25%OFF」という割引訴求を行う場合、以下のような違いが生じます。
台湾(台湾繁体字):現在75折
香港(香港繁体字):宜家75折
「75折」は定価の75%(つまり25%OFF)を意味する共通の表現ですが、「今/現在」を示す言葉として、台湾では「現在」、香港では広東語の「宜家」が用いられます。
香港に対して台湾式の「現在75折」を使用しても意味は通じますが、現地ユーザーへの親近感や訴求力という点では、広東語表現を用いた「宜家75折」が優位です。
Web広告やSNSでは、現地のユーザーが直感的に理解できるネイティブな表現への翻訳・ローカライズが、クリック率を左右する重要な要素となります。
言語表記に関してはこちらもご覧ください。
関連コラム🔗台湾・香港向けWeb広告の国別の特徴と注意事項(広告文章編)
言語以外の視覚要素においても、台湾・香港には共通する傾向と、異なる嗜好性が存在します。
まず、両市場に共通するクリエイティブの特徴について触れます。
中華圏の文化背景を持つ両市場では、伝統的に「赤」や「金」、「ピンク」といった暖色系が好まれる傾向にあります。これらは祝祭や幸運を象徴する色であり、セールやキャンペーンのバナー広告において高いアイキャッチ効果を発揮します。
一方で、「白」や「黒」の単色使いは、葬儀や不吉なイメージを連想させる場合があるため、特に旧正月(春節)などの祝賀シーズンや、一般消費財の販売促進においては慎重に使用する必要があります。ただし、後述するように、ブランディングを重視する商材や香港市場の一部では、この限りではありません。
日本国内のクリエイティブと比較して、画像だけでなくイラストを多用し、賑やかな印象を与えるデザインが好まれる傾向にあります。特にフォント選びにおいては、可読性だけでなく、デザイン性の高い変形フォントや、インパクトのある太字を活用し、視覚的な刺激を強める手法が一般的です。
台湾向けのクリエイティブでは、ビジュアルによる雰囲気作りよりも、文字情報による具体的なメリット提示が好まれます。 ユーザーは仕様や価格、キャンペーン内容などの詳細を重視するため、テキスト領域を大きく確保し、一目で情報が伝わるデザインが高い成果に繋がります。
以下の「日本旅行」をテーマにしたバナー例をご覧ください。
図の例にあるように、台湾向けのバナーでは文字数は大きめ(多め)になる傾向があります。「日本旅行」「富士山」といった主要なキーワードを大きく配置し、一目で何についての広告かを伝えます。 台湾のユーザーは、商品やサービスの仕様、価格、メリットなどの具体的な情報を重視するため、テキスト領域を大きく取り、文字情報を強調するデザインが高いパフォーマンスを出す傾向にあります。
また、文字色にはピンクなどの目立つ色を使用している点も特徴です。背景画像に埋もれないよう、白フチやドロップシャドウで文字を強調し、視認性を高める工夫が求められます。
その他の台湾市場の特徴として、企業発信のメッセージよりも、第三者からの口コミや推奨を信頼する傾向が挙げられます。そのため、クリエイティブの中に有名なインフルエンサー(KOL)や芸能人を起用することは、他国以上に効果的な施策となります。
香港市場では、国際都市らしい洗練されたデザインや、直感的なアプローチが好まれます。 文字情報で画面を埋め尽くすのではなく、写真のクオリティや余白を活かしたレイアウトでブランドの世界観を伝える手法が有効です。
以下の「日本旅行」をテーマにしたバナー例をご覧ください。
図2の例を見ると、台湾向けと比較して文字数は少なめに抑えられていることがわかります。 香港では、テキストで画面を埋め尽くすよりも、要点を絞ったキャッチコピーを配置し、フォント自体にグラデーションやデザイン処理を施すことで、視覚的なインパクトを与える手法が好まれます。
背景に実写の画像を使用する点は共通していますが、香港向けでは文字による説明過多を避け、写真の世界観を活かすレイアウトが一般的です。 また、香港は英語が公用語の一つとして浸透しているため、ターゲット層によっては繁体字を使用せず、英語のみで構成されたスタイリッシュなクリエイティブも有効に機能します。
Webサイトのデザインにおいても、前述の傾向は顕著に表れています。グローバルなアウトドアブランドである「The North Face」の台湾サイトと香港サイトを比較すると、その戦略の違いが見て取れます。
台湾版のサイトでは、繁体字による詳細な商品説明が行われ、価格やキャンペーン情報が目立つ位置に配置されています。これは、Webサイトを情報を収集し、購買を決定する場として捉える台湾ユーザーの行動様式に合わせた、販売促進重視のデザインと言えます。
一方、香港版のサイトでは英語表記が中心であり、繁体字表記が見当たらないケースも珍しくありません。商品はカテゴリごとにシンプルに整理され、価格訴求よりもブランドイメージの伝達に重きを置いた構成となっています。
基本的に使用すべきではありません。簡体字(中国本土で使用)と繁体字は文字の形状が異なり、政治的・文化的な背景からも、台湾・香港のユーザーに対して簡体字のクリエイティブを表示することは、ブランドイメージを損なうリスクがあります。必ず繁体字で制作してください。
同じ繁体字であっても、前述の通り用語や言い回しが異なるため、可能であればそれぞれの国に合わせてローカライズしたLPを用意することを推奨します。予算の都合で分けることが難しい場合は、誤解を生まない標準的な書面語(標準中国語)を用いるなどの配慮が必要です。
台湾と香港は、同じ繁体字圏という括りであっても、そこに含まれる言語文化やデザインの嗜好性は大きく異なります。
Web広告の成果を最大化するためには、単なる言語翻訳に留まらず、各市場の文化的背景やユーザー心理を理解した「クリエイティブのローカライズ」に取り組むことが重要です。ターゲットとする市場がどちらの傾向を強く持っているかを見極め、適切なデザインとメッセージを選択してください。