2021年10月25日、Googleは「アプリ エンゲージメント キャンペーン」に関するアップデートを発表しました。
※引用:GoogleWEBサイト、アプリ エンゲージメント キャンペーンに関するアップデート
(https://support.google.com/google-ads/answer/11287078)
今回は「エンゲージメントキャンペーン」、「ディープリンク」等、聞きなれてはいるものの分かりにくい内容についてもできるだけ詳しく解説しつつ、この事象について広告主側の影響について触れてみたいと思います。
まずエンゲージメントキャンペーンについて知るために、アプリキャンペーンの仕組みについて最新情報に基づいて振り返りたいと思います。Google広告におけるアプリキャンペーンとはどういうものでしょうか?
アプリキャンペーンとは
Google広告の「アプリキャンペーン」について簡単にまとめると以下の通りです。
・まずGoogle広告のキャンペーンとしてアプリを広げたいユーザー向けに「アプリキャンペーンが用意されています。
・「アプリキャンペーン」では、アプリ外・アプリ内問わずユーザーデータをGoogleのAIが解析し、最適な利用シーンで対象アプリを訴求するという機能を持っています。
・その機能とは、ひとつのキャンペーンにテキスト・画像・動画といった複数の広告クリエイティブを入稿しておくことで、GoogleのAIが自動で一貫性のある広告配信を実現させるものです。
・「アプリキャンペーンで」は、例えば「インストール」や「チュートリアル突破」、「会員登録、課金等といったアプリ内行動」など広告主によって異なるマーケティングの目標に応じて複数の「キャンペーンタイプ」から選ぶことができます。
三つの「キャンペーンタイプ」について
また、「キャンペーンタイプ」は大きく分けて3種類存在しますが、その種類と特徴については以下の通りとなります。
1.インストール(AC for Install)
まず新規ユーザーの獲得を目的にCPIや日予算の設定を実施する機能です。
「ローンチ時」、「新規ユーザーの獲得時」等に活用します。
2.インストールアドバンス(AC for Install Advanced)
続いて、特定のアプリ内イベント(サービス申し込み、課金など)を達成する見込みが高いユーザーに対するインストール獲得を目的にしたキャンペーン
(CPI設定は自動設定)。
3.アクション(AC for Install Action)
特定のアプリ内イベントを達成する新規ユーザーのインストール獲得を目的にしたキャンペーン(CPIの設定等必要)。インストールのボリュームよりもアプリ内でのイベント発生数にフォーカスする場合に適しているといわれている。
※参考:Google公式Youtubeチャンネル(1,Google 広告 アプリキャンペーン とは)
https://www.youtube.com/watch?v=uaC-zOdjbhY
では「エンゲージメントキャンペーン」の対象はどのように定義付ければよいか?
まず、モバイルアプリでいう「エンゲージメント」ですがこれは「ユーザーとアプリとのやり取り全般」を意味しています。つまり、ユーザーのアプリに対する使用時間、使用頻度、使用状況(アプリで発生したイベント数)はじめ、アプリ内のあらゆるデータを評価することで「エンゲージメント」が評価されるという概念が前提にあることを意味しています。
これをアプリキャンペーンの項目の話と統合すると「Google広告におけるエンゲージメントキャンペーン」とは「広告主の保有するアプリに対するエンゲージメントを引き上げることを目指すキャンペーン」ということになります。
もう少し分かりやすく表すと、
・既にインストールはしているがほとんど利用されていない
・インストールし利用しているが、有料サービスの申し込みやアプリ内課金の実績がない、頻度が低い
・アプリの利用時間、利用頻度を引き上げたい
このようなニーズを持った広告主に対して用意されたキャンペーン。ということになります。
エンゲージメントキャンペーンの必要性
ここでそもそもエンゲージメントキャンペーンに必要性についてですが、Googleの公式ブログの中に以下の記述があります。
「データでみると、そもそもモバイルアプリをインストールしても利用しなくなってしまう人も多く、アプリインストールの翌日そのアプリを利用するユーザーはインストールしたユーザー全体の内 26%で、2週間後も利用しているユーザーは12%という調査もあります。
そして、過去数年間で モバイルアプリゲームで遊んでいると回答した対象者のうち、およそ1/3しか実際にアイテムなどを購入した有料ユーザーはいません。
また、同じ調査によると1割の有料ユーザーが支払い総額の8割を占めているという、熱狂的なファンに支えられている状況があり、ゲーム会社はそうした熱狂的なファンになってくれるユーザーを効率的に見極める必要があります。」
※GoogleWEBサイトより引用
https://www.thinkwithgoogle.com/intl/ja-jp/marketing-strategies/app-and-mobile/konami/
この記事は一例ですがGoogleとしても「アプリをインストールしてみたけど実際に利用しなかった」、「アプリは利用されているが課金はされていない」等といった広告主のエンゲージメント上の課題に意識が向いていることは明確で、それに寄り添う広告プラットフォームを目指している姿勢が垣間見えます。
上記にある「広告主のエンゲージメント上の課題」のひとつに「出稿のしやすさ」というテーマがあります。実はこれまではこの「エンゲージメントキャンペーン」を出稿するためには広告グループのリンク先URLに「ディープリンク」を設置する必要がありました。
「ディープリンク」とは簡単に言えば「アプリの特定画面へ遷移させるためのリンク」のことです。
※出典:Google広告ヘルプ「ディープリンクについて」
https://support.google.com/google-ads/answer/10023042
これを実施するためにはSDK(Software Development Kit≒ソフトウェア開発キット)からの操作や設定が必要で、通常広告出稿を実施する担当者は扱えない場合が圧倒的に多いというのが実情でした。つまり「ディープリンク」を設定するためにアプリ制作者やアプリ管理者に依頼をし、依頼通りのリンクアドレスを広告管理画面に設定する必要があったわけです。このことが大きな出稿プロセスのロスや、場合によっては出稿を断念せざるを得ない原因となっていたケースも少なくはありません。
ここまでがこれまでの現状です。
このようにGoogleの今回のアップデートで『「アプリ エンゲージメント キャンペーン」で、手動によるディープリンクが不要になった』訳ですが、ここからは今と今後の影響についてまとめていきたいと思います。
まず全体の影響で見れば、今回のアップデートによる影響はきわめて限定的で軽微なものと推測できます。
期待できるプラスの影響は
その上で今回の件でどういった広告主が恩恵を受けることになるのか?
ですが、まず思い浮かぶのは「広告出稿は自分の(自社の)意思でできるが、アプリのシステムをコントロールできない広告主」ではないでしょうか。
「ディープリンクを設置してみたい。一度効果を試してみたい。」と思いつつも、費用面や手軽さが担保できず実装経験のない広告主は一定数存在するはずです。そういった広告主に対しては、特にトライアル的に試してみる価値は大いにあるといえます。
ただ一方でそういったプラスの効果は小さく、きわめて限定的であるとする根拠として以下2点があげられます。
・自由度が限定的
まず「ディープリンクの設定が不要になった」といっても、すべてのディープリンクを自由に設定できるわけではありません。
Google広告のヘルプにもある通り「広告からアプリのホームページに直接ユーザーを誘導できるようになります」と記載がある通り、アプリ内の特定のページまで設定できる機能が備わっているわけではありません。
※出典:アプリ エンゲージメント キャンペーンで、手動によるディープリンクが不要になりました
https://support.google.com/google-ads/answer/11287078
この点は既にディープリンクを細部に設定している広告主から見ればまだまだライトスペックであると言わざるを得ません。
・まだアンドロイドのみ
また、こちらもGoogle広告ヘルプページに記載されていますが、今回のアップデートは現時点ではアンドロイドのみが対象となります。
特に世界とは逆行してiOSが多数派を締める日本市場の中では広告主が「便利に日常利用する」というところまでに至っていません。
これらのことから「試してみる価値がある機能ではある」ものの、「実際の影響は軽微である」事がわかるかと思います。
ただこれまでのGoogle広告の進化を踏まえ、少し先を考えた場合、
・iOSに派生する可能性
・Google広告管理画面上で「ディープリンク」が自由に設定できる可能性
こういった可能性はかなり近い未来に実現し得る事も簡単に推測できます。
今ある制約がある程度クリアになり、広告主がシームレスでアプリエンゲージメントキャンペーンを使いこなす日もそう遠くはないと言えるでしょう。
それが実現できた段階でエンゲージメントに関する広告はひとつ進化することになると言えそうです。
また、アプリのエンゲージメント向けキャンペーンはGoogle広告以外にもFacebook広告でも実施可能な状況の中でGoogle広告がひとつ先のステップに入ることになります。
そういったプラットフォーム側の動向を見る上でも注目していければと思います。
ちなみに海外向けのプロモーションへの影響について述べておくと、結論は「ほぼない」と言えそうです。
今回のアップデートは、「エンゲージメントキャンペーンを完全に外部に委託しきっている企業やマーケターがリンク設置を容易にするための仕組み」とも言い換えることができます。
例えば、金融機関のアプリ、旅行会社のアプリなどをイメージしていただければ分かりやすいと思いますが、具体的には国内向けにサービスを持っていて、アプリを提供している企業にフィットしたアップデートになります。
一方で、海外出稿するアプリ開発ができる規模の企業で、さらにエンゲージメントキャンペーンを実施する会社となると、例えばゲーム開発企業やシステム開発企業のアプリ等を例にとれば分かりやすいと思いますが、ディープリンクの設定は自社内で簡単に実施してしまいます。
以上の観点から、今回のアップデートで恩恵を受けるケースは、国内市場に対してアプリ開発業者に制作を委託している企業やマーケターが多数派であると推測できます。
・これまではアプリ向けエンゲージメントキャンペーンには主導によるディープリンクの設置が必要(必須)だった。
・ディープリンクの設置にはSDK経由でアクセスが必要なため、マーケターが単独で実施できないケースが大半だった。
・今回のアップデートでSDKを操作しディープリンクする必要がなくなる点は大きい。
・とはいえアンドロイドのみなので広告主の利便性。という観点では限定的。
・加えてリンク先はトップページ限定で、すべてのディープリンクを自由に設定できるわけではない。
今回のアップデートは影響こそ限定的であるとはいえ、エンゲージメントキャンペーンに大きな変更があったことは事実です。また、今後Googleがどのようにアップデートしていくかによって、広告主側の対応できる幅も変わってきます。
そういった観点では今後も動向は見逃せないと言えるでしょう。