香港の飲食業界は、パンデミック以降、激しい変化と再編の波に直面しています。消費の二極化、健康志向の高まり、そして伝統文化の再評価といった多層的な動きが交錯する中、食や観光の分野においても注目すべきトピックが多く見られます。
2024年現在、香港では外食の消費が明確に二極化しています。ファストフードやテイクアウト専門の”Grab & Go”型店舗が支持を集める一方で、高級料理や特別な体験を重視する層も健在です。価格とスピードを求める層と、質やサービスを重視する層の両極が拡大し、中間価格帯の店舗は苦戦を強いられています。
また、香港住民の「北上消費」(=週末や休日に中国本土へ渡り、外食や買い物を楽しむ傾向)も見過ごせない動きとなっています。週末になると多くの人が深センへと足を運び、香港より安価で多様なサービスや食事を享受。これにより、地元飲食店の集客力が弱まり、とくに中小規模の飲食店にとっては大きな経営課題となっています。
香港では、健康意識の高まりにより植物性食品や減塩・減糖志向が定着しつつあります。植物肉ブランド「OmniPork」などが話題を呼び、飲茶店でもヴィーガン対応の点心を提供するなど、伝統的な料理や食事の中に新しい価値観が浸透しています。外食チェーンも「Green Eating」を掲げ、サラダ専門店や無糖ドリンクを取り入れる動きが広がっています。
さらに、涼茶(中国ハーブティー)や亀苓膏(亀ゼリー)といった漢方由来のスイーツが、ヘルシーデザートとして再評価されています。伝統と健康を両立させた商品開発が進み、SNSでも話題を呼ぶなど、若年層にも浸透しています。
国際都市でありながら、香港の食文化には独自のマナーや“講究(こだわり)”が根付いています。たとえば、共用の取り箸を使うこと、食器を熱湯でさっとすすぐこと、急須のフタをずらしてお湯のおかわりを依頼すること、さらにはお茶を注がれた際に指でテーブルを軽く叩いて感謝を伝えるなど、香港特有の習慣は今も大切にされています。
また、円卓を囲んで賑やかに食事を楽しむことや、骨や殻が散らかることすら「美味しさの証」と捉える文化もあり、実利と効率を重視する一方で、食を囲む“場”そのものに重きを置く姿勢が見られます。
かつて香港の象徴だった街頭小吃(ストリートフード)は、都市開発や衛生規制の影響で年々姿を消しつつあります。老舗も相次ぎ閉店し、観光資源としての魅力低下が懸念される一方で、高級中華の革新が注目を集めています。ミシュラン星付きレストランやモダン中華の躍進により、伝統食材を現代的に再解釈した食事メニューが登場し、富裕層や観光客を中心に人気を博しています。
こうした変化を捉えることは、食や観光に関わるビジネス全体にとっても重要です。たとえば香港人旅行客向けに健康志向のメニューや伝統的な食事スタイルを提案したり、昔懐かしい空間演出で共感を呼んだりすることで、差別化が可能になります。また、香港市場への進出を検討する場合も、品質重視層と手頃さを求める層への二面戦略や、現地文化を尊重したサービス設計が求められます。
香港の食事と食文化は今後も変化し続けるでしょう。しかしその核には「柔軟に新しいものを取り入れつつ、根っこにある食の喜びや文化を大切にする姿勢」があります。そうした本質に寄り添うことが、ビジネス成功のカギとなるはずです。