2021年10月7日、Googleは「気候変動に関する広告と収益化に関するポリシーの更新」を発表しました。
※引用:GoogleWEBサイト、気候変動に関する広告と収益化に関するポリシーの更新
(https://support.google.com/google-ads/answer/11221321)
具体的な内容はGoogle広告のヘルプページより確認が出来ますが、今回はこの発表の詳細解説とその背景について触れてみたいと思います。
早速本文を見てみると以下の通り記載があります。
※引用:GoogleWEBサイト、気候変動に関する広告と収益化に関するポリシーの更新(https://support.google.com/google-ads/answer/11221321)
とあります。
「ここ数年、広告主様とパブリッシャー様から、気候変動に関する不正確な主張とともに広告主様の広告が掲載されたり、そのような主張を宣伝する広告が掲載されたりすることを懸念する声が多く寄せられています。」
※GoogleWEBサイトより引用
要するに「気候変動に関する不正確な主張」を懸念する広告主、パブリッシャーからの懸念が高まっていることに端を発しているようです。懸念の矛先はそれぞれ、
・広告主→自社の広告が掲載されるYoutubeコンテンツ
・パブリッシャー→自社のYoutubeコンテンツに掲載される広告
この双方から相応しくないコンテンツや広告を排除したいという意向があると読み取れます。
では、ここでいう「気候変動に関する不正確な主張」とは一体何を指すのか?
Googleの記載を読み進むとその詳細が見えてきます。
※引用:GoogleWEBサイト、気候変動に関する広告と収益化に関するポリシーの更新
(https://support.google.com/google-ads/answer/11221321)
この中に、以下の記載があります。
この新しいポリシーでは、気候変動問題の存在とその原因に関して、十分な 評価が確立された科学的な合意と矛盾するコンテンツを宣伝する広告の掲載と、 そうしたコンテンツの収益化は禁止されます。
これには、気候変動が捏造または詐欺であると言及するコンテンツ、温暖化が 進行していることを示す長期的な傾向があることを否定する主張、温室効果ガスの排出または人類の活動が気候変動の一因となっていることを否定する主張などが含まれます。
※GoogleWEBサイトより引用
この内容から、趣旨としては、
・気候変動自体が捏造や詐欺といった主張するコンテンツ。
・温暖化が進行していること事態を否定する主張。
・温室効果ガスの排出または人類の活動が気候変動の一因になっていることを否定する主張。
といった類の「広告の掲載(広告主)」、「コンテンツの収益化(Youtubeコンテンツ)」は 禁止します。という内容であることがわかります。
つまり、「気候変動に関する不正確な主張」とは「地球温暖化自体を否定する主張」とほぼ同意ということになります。
実際のところ、インターネット上では地球温暖化事態を否定するようなコンテンツが一定数存在し、一部では「気候変動否定コンテンツ」というような呼ばれ方もしているようです。
では、なぜ「地球温暖化自体を否定する主張」がYoutube上で禁止となったのか?
この疑問にもポリシーの更新の発表の続きで触れています。
※引用:GoogleWEBサイト、気候変動に関する広告と収益化に関するポリシーの更新
(https://support.google.com/google-ads/answer/11221321)
Google は、国連気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の評価報告書に寄稿した専門家を含む、気候科学に関して信頼できる情報源と協議のうえで、このポリシーとその条件を作成しました。
※GoogleWEBサイトより引用
上記の通り記載があることからも分かるように、まず前提の一つとして2015年9月の国連サミット(ニューヨーク)で採択された「SDGs」の17のゴールの中の1つである「13.気候変動に具体的な対策を」が根底にはあることは推測されます。
ちなみにSGDsの17のゴールには中間目標に位置づけられる「ターゲット」が256具体化されていて、気候変動の部分では以下5つの「ターゲット(3つの達成目標と2つの実現のための方法)」が設定されています。
13-1:
気候に関する災害や自然災害が起きたときに、対応したり立ち直ったりできるような力を、すべての国でそなえる。
13-2:
気候変動への対応を、それぞれの国が、国の政策や、戦略、計画に入れる。
13-3:
気候変動が起きるスピードをゆるめたり、気候変動の影響に備えたり、影響を減らしたり、早くから警戒するための、教育や啓発をより良いものにし、人や組織の能力を高める。
13-a:
開発途上国が、だれにでも分かるような形で、気候変動のスピードをゆるめるための行動をとれるように、UNFCCC※で先進国が約束したとおり、2020年までに、協力してあらゆるところから年間1,000億ドルを集めて使えるようにする。また、できるだけ早く「緑の気候基金」を本格的に立ち上げる。
※国連気候変動枠組条約(UNFCCC)は、大気中の温室効果ガス濃度の安定などを目的につくられた条約で、1992年採択、1994年発効
13-b:
もっとも開発が遅れている国や小さな島国で、女性や若者、地方、社会から取り残されているコミュニティに重点をおきながら、気候変動に関する効果的な計画を立てたり管理したりする能力を向上させる仕組みづくりをすすめる。
※unicefWebサイト:「気候変動に具体的な対策を」より引用(https://www.unicef.or.jp/kodomo/sdgs/17goals/13-climate_action/)
もう一点。もともとSDGsの気候変動分野に関しては、1997年に「温暖化防止のための国際会議」で取り決められた世界で初めての国際協定「京都議定書」を踏襲し、2015年に「国連気候変動枠組条約締約国会議(通称COP)」で合意されたいわゆる「パリ協定」の存在があります。
「パリ協定」は、
・55カ国以上が参加すること
・世界のCO2総排出量のうち55%以上をカバーする国が批准すること
を目標に国際的な条約かわす「協定」で、この協定に則り、参加各国は目標達成までの計画の提出やCO2排出権の取引などといったルールが課せられる仕組みの中で計画の遂行を目指しています。
この両者の違いはざっくりいうと、「SDGs」は国連すべての加盟国に対して取り組み方針が委ねられている「社会規範的」な取り決めであることに対して、「パリ協定」は締結国同士が交わす「ルール遵守と義務」が強いられる「条約」という側面を持っています。
この2つの背景がGoogleのポリシー変更に大きく影響を与えていることはいうまでもありません。
ではなぜ2015年にSGDs、パリ協定が動き出している中で、この「気候変動」分野について、2021年にGoogleがポリシーを更新することになったのか?について触れておきたいと思います。
実はこれにはアメリカの複雑な政治的な事情があります。
実際のところ米国ではこれら温暖化問題は党派問題として扱われる側面もあり、米国内の約半分を占める共和党はこれまでも温暖化を支持しないことが基本方針になっています。
実際、米国ではパリ協定批准時は民主党政権下で、当時の大統領バラク・オバマ氏率いる民主党がこれを先導して来ました。「地球温暖化の一因にCO2排出量の問題が含まれている科学的根拠」に基づいて、その削減目標を掲げ、世界をリードしてきたわけです。
ところが、2017年1月に共和党のドナルド・トランプ氏が大統領に就任すると事態は一転し、同年6月に不公平な協定を理由に米国はパリ協定から離脱することを表明しました。
結局のところ、2021年1月に発足したバイデン民主党政権発足後の直後、2月に正式にはパリ協定に復帰することになりました。
・参考:米国がパリ協定に正式復帰、4月に気候変動サミットを主催
※https://www.jetro.go.jp/biznews/2021/02/d9f0b261a8e18d11.html
ここから先は推測の部分ですが、民主党政権下で気候変動サミットを主催すなど地球温暖化に対する取り組みの主導権を握ろうと動く中に今回のGoogleのポリシー変更が影響を受けていることが伺えます。
以上、気候変動に関するGoogleのポリシーについてまとめてみましたが、既に記載にあるように、この動きを受けて広告主側が注意するべき点としては、
・気候変動自体が捏造や詐欺といった主張する内容
・温暖化が進行していること事態を否定する内容
・温室効果ガスの排出または人類の活動が気候変動の一因になっていることを否定する内容
上記3点に配慮した広告内容に終始する。ということに尽きるかと思います。
また今回「気候変動(という社会情勢)」に関するGoogleのポリシー変更をテーマに背景をまとめた訳ですが、このような「Googleのポリシーの変更」は決して珍しいことではありません。
デジタル世界におけるプライバシー、人権、国ごとに異なる法律など時代や政治を背景に日々新しい基準がアップデートされている中では、その内容に常に対応していくことだけが求められるというのが現状です。
今回のGoogleのポリシー変更は、ただ単にGoogleがSDGsの内容に沿って(それに従って)このような変更に至ったと見てしまえばそれまでですが、実際のところ様々な環境の変化が影響して「今」決定された事が理解できます。
またその背景から同社の様々な利害関係の背景がある中で、満を持して今、ポリシー変更に至ったという「覚悟」も透けて見えます。
Googleはこれまでにもプライバシーに関する規制に対する対応、欧州諸国に起因するデジタル課税に対する対応、中国資本の脅威。それら起因する途上国に対するこれまで以上のアプローチの必要性など、様々な課題に向き合いながら複雑な判断をし続けています。
事業も多岐にわたり、世界最大級のデジタルカンパニーである同社だけに、ポリシーの更新一つからも企業としての性格や意思が見えてきます。今後の動きも見逃せません。
また一方で、広告主視点で見れば、広く世界情勢や倫理的、学術的な価値基準を把握しておくことで、こういった急なアップデートに対しても「想定内のアップデート」として柔軟に対応できることも留意の上、大局を見極めたいところです。