毎年11月11日、中国や台湾で繰り広げられる「双11(ダブルイレブン)」のショッピングフェスティバル。今年も両地域で様々な話題が飛び交いましたが、その様相は大きく変わりつつあります。本来、双11は年に一度の「お得な日」として盛り上がりを見せていましたが、今では消費者の価値観の変化や社会的な対立も表面化する複雑な現象となっています。
今年の中国では、双11がいつものような消費熱ではなく、むしろ社会問題の引き金となりました。特に京東(JD.com)の広告モデルに選ばれ、またすぐに降板されたタレント、コメディアンの楊笠(ヤン・リー)氏が巻き起こした性別論争が大きな話題となり、同社の株価が一時500億人民元も下落する騒動に発展しました。楊笠氏がトークショーで「普信男(プーシンナン)」(普通なのに自信過剰な男性)という皮肉を使った過去が問題視され、男性からの反発を受けた一方、女性ユーザーからも「代弁者降板」に不満が噴出し、消費以外の対立が浮き彫りになったのです。これにより、双11が単なるセールではなく、社会的な対話の場に変わりつつあることを象徴しています。
また、双11のセール期間が1ヶ月に延長された一方で、消費者のネット上での関心は例年に比べ低迷しました。オンラインショッピングの一大イベントである「天猫双11パーティー」も中止され、割引の内容が複雑で分かりにくいという声が多く聞かれました。これらの背景には、経済の減速や消費者信頼の低下が関係していると考えられます。消費者の多くは、以前ほどの割引効果が感じられず、経済的な慎重さが強まっているのです。
一方、台湾では双11を楽しむための工夫が目立ちます。全家(ファミリーマート)は「FUN心取*注釈」と呼ばれるサービスを提供し、ネットショッピングの荷物を受け取る際に、焙じ茶ラテやソフトクリームの無料クーポンがもらえるなど、買い物に小さな喜びを加える取り組みが行われています。また、momo(ECサイト)との提携による割引サービスも提供され、双11を利用したキャンペーンが多様化していることが特徴です。
さらに台湾では、双11だけでなく年間を通じてさまざまな割引イベントが実施されており、消費者の購買行動も特定の日に集中しなくなっています。例えば、年末には「双12(12月12日)」のセールや、新年に向けた家電の入れ替えキャンペーンなどがあり、消費者は自分にとって最もお得なタイミングで買い物をする傾向が強まっています。また、コロナ禍からの回復に伴う海外旅行への関心が再燃し、わざわざ双11にこだわらずに直接現地で商品を購入する選択肢も増えているのです。
*注釈「FUN心取」:「放心取(fàngxīnqǔ、ファンシンチュ)安心受取」と発音が似ており、安心感を連想させます。また、シンプルな受け取りを楽しみ(FUN)に変えることを目指し、消費者に便利さとワクワク感を提供しています。さらに、プチギフトで満足度を高め、家族や友人とのシェア効果によって口コミも期待されるスローガンです。
中国と台湾それぞれの双11の違いは、現代における消費文化の多様化を物語っています。中国では双11が社会的な問題提起や、経済の低迷を映し出す指標になりつつあるのに対し、台湾では消費者が年間を通じて賢く買い物を楽しむ工夫がなされています。また、双11を通じて、消費者のニーズが単純な「安さ」だけでなく、便利さや楽しさ、価値に基づいたものにシフトしていることも見逃せません。
こうした変化に対応するため、企業は単なる価格競争を超えた新しい価値提供が求められています。オンラインと実店舗の連携、消費体験の向上といった施策が鍵となるでしょう。また、経済や社会情勢に応じて、消費者がどのような行動を取るかを見据えた柔軟な対応が重要になっていくと考えられます。
消費の新時代を迎えた今、双11の持つ意味もまた、変わり続けていくのかもしれません。
【出典元】
※ 陸雙11 意外掀性別意識對立 – 兩岸要聞 | 中國時報
※ 陸「雙11」晚會停辦 網路買氣熄火 實體反增溫 | TVBS新聞網 via Yahoo奇摩新聞
※ 互聯互通拚增量!陸雙十一購物節平淡中落幕 美媒:史上最長促銷活動所致 | 鉅亨網
※ 中國經濟放緩 「雙十一」榮景不再 | 美國之音
※ 全家雙十一「FUN心取」優惠滿滿 11月就是這麼幸福! | 民生頭條
※ 雙十一熱潮減弱? 專家:民眾可選擇的優惠增多 | 華視